第83話

 足は駅に向かっていた。家にはまだ帰りたくない。親がいる家は、居心地が悪い。それに、及川くんと待ち合わせしてる。北河にいないと会えない。


 高校の正門前の通り、最初の交差点を左に曲がると駅。右に行けば瑛美里が住んでいる団地がある。

 このまままっすぐ行けば、河川敷がある。川沿いに歩いていれば、いくつか公園があるはず。河川敷まで行ったことないけど、時間を潰すならそこしかないのかも。

 それとも今からでも学校に戻ろうか?

 今すぐ戻っても何時間かサボってから戻っても、怒られるのは目に見えてる。単位の心配をするほど休んでいない。


 このまままっすぐ行こうと思ったそのとき、二人乗りの原付がわたしの少し前で停まった。

「紗月ちゃん」

 原付を運転していたのは、川井くんだった。後ろに乗っていた女の子をおろしたあと、川井くんは原付から降りてエンジンを切った。

 後ろに乗っていた女の子は川井くんの後ろに立ち、わたしを睨みつけている。わたしを見ている川井くんは、もちろんそれに気づかない。

 デニムのショートパンツと紫のTシャツ、明るい茶髪でソバージュ。派手な化粧のその子は、川井くんの彼女なんだろうか?


「学校はあっちだけど……。もしかしてサボり? 紗月ちゃんでも学校サボるんだねー。何かあった?」

 へらへらと笑う川井くん。

 その言葉のあとに後ろにいた女の子は、川井くんの腕にしがみつくように抱きついた。

「義人、誰よこの子」

「俺の友達ダチの彼女。さやかは、遊木瑛美里って知ってんだろ。同じ中学だったんじゃねーの?」

「瑛美里なら知ってるよ。ていうか、アタシ、五月までガワ高の生徒だったし。アンタ、瑛美里と一緒にいるのを見たことあるよ。瑛美里とは真逆な真面目ちゃんだから覚えてた」

「だよなぁ。校則まんまの格好だし」

「なんで瑛美里のダチだからって、この子に声かけたの。アタシの家に行くんじゃなかったの?」

 これは早く話を終わらせないと……、そう思っていると、

「さやか、紗月ちゃんの話を聞いてからでいい?」 

 と、川井くんは優しげな目でさやかさんを見つめた。

「しょーがないな。少しだけだよ」

 さやかさんは腕に抱きついたまま、「さっさと終わらせなよ」と照れながら言った。


「紗月ちゃんがサボる理由、教えてくれる?」

「ちょっと……いろいろあって」

「及川と喧嘩……するわけないか。お兄さんや瑛美里ちゃんともないだろうし。先生にムカついた? ……って、紗月ちゃんがそんな理由でサボらないか」

 親と何かあったという発想にならないみたいでほっとした。

「サボるのに理由、いる?」

 さやかさんが話に入ってきた。

「むしゃくしゃしてると学校行ってても帰りたくなるじゃん? きっかけはだいたい親かセンセーだけどさ」

「さやかはそれで学校やめたんだろ?」

 川井くんはそう言って笑いだした。

「家にいたら親の喧嘩にまきこまれて怒鳴られて、学校ではくだらない校則でセンセーに叩かれてさ。辞めたらムカつく場所が一つなくなってラクになったよ。いいんだよ、アタシの話は!」

 さやかさんは、笑っている川井くんの頬を軽く叩いて口を膨らませている。

「つまらないこと言われたら、サボりたくなるよね。そんな感じなんでしょ」

 さやかさんが話を早く終わらせようとしていた。


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る