第79話
お兄ちゃんは自分の電話が終わったあと、わたしの部屋のドアをノックしてきた。
部屋に入るなり、及川くんとどうなってるのかと聞いてきた。
瑛美里の紹介で知り合ったと言うと、
「紹介だと? そこまでしてオトコと付き合いたかったのか? 友達って瑛美里だろ。あの子が無理やり押し付けるとは思えない。どういうことだ?!」
と怒り出したから、落ち着かせるのが大変だった。
もしかしてお兄ちゃん、過剰に心配性なシスコンなんだろうかと不安になる。
身内に事細かく恋愛の話をするのは照れくさい。だけどお兄ちゃんにちゃんと話さなかったら、白水まで行って、及川くんに食って掛かるような気がしたから……
「五月半ばの
お兄ちゃんが難しい顔をしてわたしを見ている。もしかして怒ってる?
「そんな顔するな。あいつと付き合うことを反対してんじゃねぇから」
紹介で知り合ったんじゃなくて、櫛田駅で顔見知りになっていたこと。偶然知り合ったけど、それぞれ、お互いに彼氏や彼女がほしい気持ちはなかったことを話した。
急展開で及川くんから告白されたけど、その時点で付き合う選択はできなかったこと、その理由は話せないし話したくなかったからごまかした。
お兄ちゃんは、わたしの話を聞き終わると
「最近、表情が柔らかくなってんだよ。そんな紗月を見てるから安心してんだ。でもな? 及川と手を繋ぐぐらいは許すけど、それ以上は許さないぞ?」
それ以上って、お兄ちゃん……
わたしはお兄ちゃんにクッションをぶつけた。
「そうかー。紗月にオトコできたか。じゃあ、俺もいい加減落ち着かないとなあ」
ぶつけたクッションを床に置いて、お兄ちゃんはしみじみつぶやいた。
「そういえばお兄ちゃん、今まで家に彼女を連れてきたことないよね」
「めんどさいことになるからな。俺のオンナってだけで調子に乗るとか、そいつに媚びるとか。及川もたぶんそういうのあるはずだ」
「へ、へえ。よくわからないけど……わたしは良かったのかな?」
「紗月は及川が白水で有名なやつだから好きになったんじゃないだろうが。素の及川を知ってるからだろ。で、及川は俺の妹だと知っていようがなんだろうが、素の紗月にホレてんだ」
お兄ちゃんに言い当てられて、わたしは恥ずかしくなってしまう。
あれ? 及川くんは、わたしのお兄ちゃんが誰だか知ってた?
「お兄ちゃん、最初の電話で及川くんとどんな話をしたの?」
「本人から聞けよ、そういうのは」
お兄ちゃんはニヤニヤしながら立ち上がり、わたしの部屋から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます