第69話
二時間たったのか、「起きろよ」と篤史が起こしにきた。
「保健室で寝てるって担任に伝えてっから。もう少し寝るなら伝言しておくけど、どうする?」
「教室戻るよ。ありがとな」
背中をかばいつつ、放課後まで授業を受けた。
翌日の朝、昨日より痛みも気にならなくなって、ほっとした。
櫛田駅で鍵屋さんを見つけて小さく手を振ってみる。鍵屋さんも笑顔で返してくれた。
鍵屋さんは笑ってるけど、元気なさそうに見える。なんかあったかな?
電車に乗って窓側の奥から鍵屋さんを見ていると、市内の女子校の制服を着た子が鍵屋さんの斜め後ろくらいから睨みつけるような顔で立っているのが見えた。
鍵屋さんの知り合いかな? 友達ならあんな顔で見ることはない。
鍵屋さんからこの前聞いた中学時代の話……鳥生と付き合い始めた子を思い出した。中学卒業してからまだ付き合っているなら、睨みつけるようなことにはならないだろうから、見間違いかもしれない。
気にしないでいようと思いながらも、元気なさそうな鍵屋さんが引っかかっていた。
「昨日、瑛美里と会ってるとき、鍵屋さんもいたんだよな。駅前までは邪魔な川井もいた」
「昨日、約束してたんじゃねーの?」
「駅でうろついてたら来るだろうなと思ったんだよ。約束してなくてもわかるっつーか」
「しっかり、のろけてんじゃねーか」
少しだけしどろもどろな篤史がおかしくて、笑ってしまった。付き合いが長いとなんとなくっていう感覚があるんだろう。
「そういや、篤史って鍵屋さんの呼び方変えた?」
川井と同じで紗月ちゃんって呼んでた気がする。
「昨日、晴月さんを
どういう流れで鍵屋さんのお兄さんと会ったのかわからない。でも、ちょっとばかり嫌だったのは本音だから、苦笑いで返しておいた。
「鍵屋さん、昨日、様子おかしくなかったか?」
「昨日? んー、どうだった……」
篤史が目をそらした。嘘が苦手らしいのがわかる。
「なんかあったんだろ? さっきも元気なさそうだった」
篤史は困った顔で、俺にどう言おうか悩んでいるように見える。
「鍵屋さんは晴月さんの妹ってことでいろいろ悩んでた時期があったみたいでさ。俺も川井も鍵屋さんのお兄さんが晴月さんだと知ってる。
俺は本人から聞いてないことは知らないことだと思ってるから、もし話が出ても知らないフリする。でも、川井がしらじらしく晴月さんの話をしたあとから泣き出してさ……」
そのあとは遊木さんがなだめながら、遊木さんの家に二人で帰っていったらしい。
「俺が瑛美里の家に行ったら、まだ鍵屋さんがいてさ。まだ、なんか、いろいろ落ち込んでるみたいだったな。瑛美里の作ったチャーハンを三人で食べたあと、鍵屋さんのお兄さんが団地の近くまで迎えに来たんだよ」
いろいろ落ち込んで?
何か端折ってるな、これは。
「いろいろってなんだ? 晴月さん以外のことでも悩んでるって?」
そこで、駅に着いてしまう。
「あとは鍵屋さんから直接聞かないといけない話だろ。昨日食べ終わってからは落ち着いたように見えたんだよな。この時間ならまだ瑛美里、家にいるから電話してちょっと相談してくる。売店の前辺りで待ってろ」
篤史が時計を見ながら、公衆電話に向かった。
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