第68話
「及川もサボりか」
保健室を開けると、篤史と川井と見知った機械科のやつが何人かいた。
「サボり……」
殴られたところが痛むとは言えず、同意するしかなかった。
「風邪が治りきってないとかじゃねーの?」
篤史が無理すんなよと付け加えて、ベッドの横にある丸椅子に座った。
「風邪以外に理由はないだろー。だったらサボりだな」
川井が菓子パンを頬張りながら言った。
川井、もしかして俺が一昨日殴られたの知ってんのか? 含みがあるような言い方だった。
川井なら少しだけ白水に詳しい。知り合いもいるはずだ。少しだけ住んでた。
まさか川井がやらせた? まさかな……
「及川、まだダルいならベッド空いてるぞ」
篤史がそう言いながら紙パックのコーヒー牛乳を、俺に差し出す。
「これ、篤史のじゃないのか?」
「間違えて買ったんだけど甘すぎて飲めないから」
「篤史、菓子パン食いながらそれは説得力ねーな」
川井はオレンジジュースを飲んでいた。
「余ってるならもらう。ところで、センセーは?」
俺の質問に、「たばこ休憩で職員室だろ」と川井が言った。
「本当は川井が追い出したんだよな」
「追い出したって?」
保健室のセンセーにタバコ一箱渡して、二時間くらい保健室を明け渡せと言ったらしい。
「人聞きが悪いな。俺らと一緒にいるより職員室でタバコ吸うほうがいいだろって提案したんだよ」
川井は、冷たく言い放った。
「そのときの川井、出ていかないなら殺しかねないような顔しててさ、川井のそれにびびって出ていったと思う」
篤史は菓子パンを食べ終わり、パンが入っていた袋をゴミ箱に投げ捨てた。
「今日の放課後、瑛美里と会うんだけどさ。及川も北河、来る?」
川井から感じた冷たい空気が一瞬で消えた。
「俺は行かない」
土曜日に会うときの金をよけておきたいし。会えるのなら会いたいし、話したい。
「川井は来なくていいからな」
篤史が釘を差している。
川井は「紗月ちゃんと話したいのになあ」と、不貞腐れたふりをして、俺を見た。
俺だって話したいよ。
バイトすれば金はなんとかなるだろうけど、鍵屋さんと会う時間が減る。高校生ができるバイトって何があるんだ?
「及川、ダルそうだけど、やっぱりまだ体調悪いんじゃねーの? ここで少し寝るか?」
篤史が保健室の一番奥のベッドを指さした。
「そうする。篤史たちがここを出るとき起こしてくれ」
奥のベッドに横たわる前にカーテンをひく。背中をかばいながら横になり、目をつむった。
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