第67話
教室に着くと、なぜか俺の席に川井が座って待っていた。
「どうした?」
「紗月ちゃんと及川が、どうなったか気になるから」
にこやかに言われても、川井には話したくなかった。ゴールデンウィーク過ぎてからの川井は、どことなくおかしい。俺が見ていないところで鍵屋さんに何をするかわからない。
「俺を警戒してる?」
俺が不機嫌なのが伝わったらしい。
「胡散臭いとは思ってるけど、警戒するほどじゃない」
「胡散臭いってひどいなー。鍵屋さんとどうなったのか知っておかないと手を出せないじゃん?」
「川井に尻尾振って近づいてくる女なら、ほかにいるだろ」
「簡単に落ちる子なんてつまらない。でも紗月ちゃんはおにーさんが怖いからほどほどにしないといけないとは思ってるよ」
川井の真意が読めない。
俺を苛立たせたいのか、鍵屋さんを本気で気に入ってるのか。どちらにしても感情的になるのは川井の思う壺だろう。
予鈴が鳴り、川井を追い出す。
俺に絡んでくる理由がわからない。暇つぶしというなら適当にかわしながら相手にするけど。
「機械科の川井、目障りなら潰してやろうか?」
入学してからしばらくの間、俺をけむたがっていたリーゼント頭――名前を覚えてない――が、俺の席の前に立ち腕を鳴らしながら言った。
「お前が喧嘩したいだけだろ? 目障りとは思ってないしお前には頼まない。何かあるんなら川井に直接言う」
今の川井なら直接言っても、へらへら笑って逃げるだろう。
川井が、誰かから恨みを買うようなことをしてるのはわかった。俺を巻き込もうとしているのか、そこはわからない。
「本当につまんねーやつになったんだな」
リーゼント頭は俺の机を蹴飛ばし、授業が始まるチャイムと同時に教室を出ていった。
つまんねーってなんだよ。そういうのがつまんねーんだろうが……
一時間目、今日は生物か。
トキ高の授業は、まともなものがほとんどない。
小声で教科書を読みながらひたすら板書する、生物。
チャイムと同時にプリントを配り、教科書に沿った問題文を読みながら答えを板書する、現代国語。
英語は担任なので、唯一まともに授業らしく機能している。聴いているやつは、半分くらい。
現代社会は、自習が多い。月に一度だけ、一ヶ月分の教科書の要点まとめのプリントを渡される。
残りの科目は授業らしいことをしているけど、先生の声が小さすぎたりヒステリックに怒り出して教室から出ていったりで、何かと中断する。
体育は厳しいから、誰も文句を言わない。
こんなので卒業しても学歴が残るだけ、中身がない。評判の悪いトキ高を卒業した学歴に意味があるのか、今の俺にはわからない。
三年間腐らずに卒業するのが目標……授業受けてると目標が低くなっていく。毎朝早起きできるのは、鍵屋さんを櫛田駅で見かけていなかったら無理だったと思う。
教室の椅子はかたい。背中の殴打の痕に当てないように座るには、前かがみで居眠りするような姿勢をキープしなきゃいけないようだ。
でもかがみ過ぎたら腹の方も痛む。
座ってるのがきつくなって、保健室に逃げることにした。
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