第56話
親父以外の大人で、真剣に叱られたのは初めてだった。
今まで、学校の先生や警察に怒鳴られたことはあった。『言っても無駄なんだろう』と最後に付け足されてきた。
「自分を
正しいと思い。何も言い返せない。
川井が自暴自棄になっているのは、川井自身がどうにかすることなんだ。かばうことにデメリットしかない。
「不良とよばれるような子どもは、なぜか互いをかばいあう傾向にある。助け合いが美徳と思ってるんじゃないか? それが足の引っ張り合いになると気が付かないか?」
「そんなの、わかってますよ……」
俺の言葉に、担任は「そうか。わかってるならいいんだ。怒鳴って悪かったな」と言いながら教室を出た。
入学早々に俺にからんできたリーゼント頭は、俺が機械科の篤史や川井と顔見知りと知ってから、何も言ってこなくなった。
強くもないのに一組ならデカイ顔ができると思っていたんだろう。公立に落ちてトキ高に入学してきた成績優秀者が集まるクラスだから。
そういうクラスだから、まともな教師が担任になるのかもしれない。
「及川、反省文だって? 原稿用紙三枚以上書かなきゃいけないらしいぞ。書けるまで帰れないってさ」
三枚はきついけど、処分の中では一番軽い。どうにか早く書き上げて帰らないとな。
紹介には興味ないけど、篤史と遊木さんが乗り気なら仕方ない。挨拶したら適当に帰ろう。
放課後までに、反省文の文面を考えておけばいい。
放課後になり、俺は川井と生活指導室に行った。あの場にいた先生は、別件で忙しいらしく、まだ来ていなかったようだ。
反省文を書き上げるまで、俺の担任がそこにいることになったらしい。
「私語は厳禁、テーブルは離れて。書いたら帰れるから先生に提出しなさい」
たばこの健康被害の話や、どうして吸うようになってしまったかの理由、それからたばこをやめるという強い決意を書いていく。
本当は、中三の二月くらいから吸っていないけど。
丁寧に書き上げていないけど、四枚目の半分くらいまで書き上げた。それを担任に渡す。
「もう書いたのか? 早いな」
そう言って流し読みをし始めた。
「うん。いいんじゃないか。これで提出しておくから、及川は帰っていいぞ」
俺は荷物を抱えて小走りで駅に向かった。
電車の時間はまだ先みたいだ。
オレンジジュースを自販機で買って飲んでいると、川井が「焦ってるみたいだけど、篤史と何か約束あるのか?」と訊いてきた。
川井に言うなと口止めされていたっけ……
「篤史の彼女に会う? もしかして、紹介?!」
俺は、「なんでだよ。俺は彼女いらねぇのに」と、鼻で笑ってあしらってみる。
「北河まで行くんだろ? 俺も行く」
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