第55話

 機械工学科の教室に入り、川井の机、ロッカー、カバンの中身を全部チェックしているようだった。そこからは何も出なかったようだ。

「ポケットの中にあるもの、全部出せ」

 川井は、面倒だと言わんばかりに全てのポケットの中のものを取り出した。

「これは、なんだ? たばこじゃないか!」

 

 川井はうまく隠そうとしたみたいだが、見つけられてしまう。

 最近の川井の素行の悪さや今の態度から、結構きびしい処分が出る可能性が高い。


「先生、それ、俺が川井に預けていたんです。川井のじゃないですよ」


 俺は教室に入り、川井と先生の間に立つ。

 机の上に置いてあるたばこを手に取り、

「あー、やっぱり俺のです」

「どうして普通科一組の及川が、川井にたばこを預ける必要がある? 教室は離れているだろう」

「中学で少しだけ俺と川井は同じクラスにいたんで、それなりに仲が良いんで」

「及川のたばこを川井が吸っていたかもしれないだろう?! 預けていたなんて信用できると思うか?」


 生活指導の教師は、頭がカタイ。

 それでも、俺ならまだ処分は軽いはずだ。高校に入ってから、おとなしくしてきた。

「中学時代の内申を見たことあるが……、入学してから真面目にやっていたから心を入れ替えたんだと感心していたがやっぱりダメなやつはダメか。放課後、及川と川井は生活指導室に来なさい! たばこは没収だ」


 ダメなやつはダメ。

 そういう決めつけが、余計にだめにするんだろう。苛ついているけど、ここでキレても、ろくなことがない。

 川井をかばったのも、本当はよくないことだとわかってる。だけど、まだ五月だ。

 高校入学してから日も浅い。今の時点で停学処分は、今後の評価に響くだろう。


 先生が教室から出ていったあと、

「及川、今日は北河で……忘れてないよな?」

 と、篤史が小声で言ってきた。

「よくわからないけど助かった。ありがとう……とか言うと思ったか? 余計なことするんじゃねぇよ」

「停学くらうつもりでわざとだったんだろうけどさ、そういうの見てしまったら、止めるしかないだろ?」


 ちっ。

 川井は舌打ちして、教室から出ていった。保健室かどこかでサボるんだろう。

「放課後、俺は北河で瑛美里たちとたこ焼き屋にいるようにする。一応、駅界隈の誰かに伝言頼んでおくから」

 機械科の教室を出て普通科に戻ると、担任が待っていた。タバコの件を聞いたらしく、顔を真赤にして怒っている。

「せっかく真面目にしてきたのに、なんでそんなことを! 今回は反省文の提出だけでよくなったからな、二度と馬鹿なことをするなよ!」



 

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