第54話

 電車のいつもの車輌に乗る。

 篤史が川井の私服姿を見たあと、川井に詰め寄っていた。

「川井、今日はサボりかよ。単位、大丈夫か?」

「そんなのは、中間や期末テストでどうにかするさ」

 川井が笑いながら答えているのを見て、俺はため息をついた。今の川井は、中学の頃の俺みたいに自暴自棄ヤケクソで無茶をしてるんじゃないんだろう。今が良ければそれでいい、そんなところか。

 

 駅に着いたら、市内の女子校の制服を着た子が川井に向かって手を振ってきた。

「はじめましてー! 義人くんの友達ですか?」

 川井と手を繋ぎながら、なれなれしく俺と篤史を交互に見てくる。

「こいつらに挨拶なんかいいから、行こうぜ」

 と、川井はその子を引っ張りながら立ち去ろうとした。

「あたしは、義人くんの彼女になる予定なので、よろしくねー」

 川井はへらへら笑っていたけど、彼女にするつもりはなさそうにみえた。

 川井たちがいなくなってから、学校に向かう。

「めんどくさそうなオンナだったな」

 篤史の言葉に「そうだな」と、相槌をうつ。

「及川は、駅で見てる子を彼女にしたいとか思わねぇの?」

「なんだよ、急に」

「瑛美里が及川に紹介したい子がいるって。会うだけでいいからってさ」

 鍵屋紗月あの子以外に興味持てるとは思えない。

「いくら友達のツテでもさ、トキ高の男を紹介されるのを嫌がらずに来る子って、どうなんだ?」

「おまえさー、瑛美里の友達なんだぞ。悪く言うなよ」

「だよな。悪い」

 と言っても……

 紹介という場に来るような子は、鍵屋紗月とはタイプが違うだろう。

 会うだけ無駄に感じるけど、断りにくい雰囲気になってきてる?

「じゃあ、会うだけだぞ?」

「おー! 瑛美里に伝えとく。次の水曜の放課後、北河駅で待ち合わせにするからな」

 篤史がほっとした様子で、「川井にバレないようにしないとな……」とつぶやいた。



 水曜の朝、いつものように鍵屋紗月を見つけて、耳は音楽に集中して、視界の隅に鍵屋紗月がいるような位置で立ち尽くす。

 いつも読んでいる本を読んでいるようで、ページが捲られない。

 様子がおかしい?

 何かあったのかと心配になっても何もできないんだと思うと、歯がゆい。


 今日の放課後、北河駅でバッタリ会わなければいい。俺が女と会っていても気にすることはないんだろうけど、見られたくないな。

 さっさと終わらせて、二度と会わない。そうなるように、話をまとめよう。

 それがうまくおさまれば、鍵屋紗月に話しかけるきっかけを作って……

 

 きっかけって、どうすればいいんだ。

 川井なら迷わず声をかけて仲良くできるんだろうけど、俺はそういうのしたことない。

 そうこう考えていると、二番線に電車が到着した。いつもの車輌でいつものように。

 

 その日の昼休み、昼飯を食べ終わり篤史がいる教室に向かっていると、川井が生活指導の教師に呼び止められているところに遭遇した。

 立ち止まって、それとなく会話を聞いていると……

「このたばこの吸い殻を、お前がでてきたトイレで見つけたんだ! 川井が吸っていたんだろう? 最近、遅刻や早退が増えてきている。機械科の連中がたばこを吸っているのはわかってんだぞ!」 

 

 川井がやってると決めつけて話がすすんでないか? たばこを吸ってるのを見たわけじゃないなら、それは言いがかりだろ。

 川井はたばこを吸ってるけどさ……

 

「その吸い殻は、俺のじゃない。それにたばこは持ってない」

「じゃあ、今から教室に行って、お前の持ち物検査するからな? たばこが出てきたら停学は免れないぞ!」

 

 教師は、川井の背中を叩きながら教室へ向かっていた。なんかおかしい。

 川井を停学にしたいからわざと仕向けているように見える。

 俺は、二人のあとをつけることにした。


 

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