第51話
あゆに対する罪悪感。
父親と兄と自分の苗字が違うこと――今のままだと、あゆは傷つくだろう。俺が、再婚することに賛成すればいいだけなのはわかっているから、余計に。
あの人は、あくまで親父の恋人。母親とは思えない。親父が再婚しても多分、無理だと思う。あゆの母親だから、否定したくない。
怒りだけで嫌う時期は通り過ぎたというのに、どうしてこうなんだろう。
頑固な性格は、親父に似たのか母親に似たのか……
軽犯罪を当時は犯罪と思わず、気持ちのおもむくままにしてきたツケが、高校入試であらわれた。
なかったことにはできないことがたくさんありすぎて、今更真面目に生きようとする自分の前にたちはだかる。
消せない過去だからって、これからを諦めるのは馬鹿みたいだ。
親父や母親やあの人のせいにするのは、やめよう。やめようと思っても、親父やあの人に対する態度をすぐには変えられそうにない。まだ、怒りはくすぶっているからだろう。行き場のない怒りがある。
ピアノのバラードが続いていた。ランダム選曲は、静かな曲から激しい曲へ。
どうしたらいいかわからない気持ちが曲調にシンクロしているかのように荒々しく、だけどメロディーはせつない。
自分だけが辛いと勘違いしていたから、いろいろこじらせたんだな。
シンプルに、まっすぐ。斜に構えていないでまっすぐ考えていけば、どうしたらいいかわからないことがわかりやすくなるのかも。
喧嘩して、暴れてすっきりしたように思っていたけど、怒りを発散していただけだった。ダサい憤りが、誰かを傷つけていい理由になっていた。
喧嘩が強いことがステータスのような世界。そこにずっといようと思わなかった。
リモコンでCDの再生を停止し、ベッドから起き上がる。
あゆのプレゼントを買いに行こう。
部屋でくつろぐ状態じゃない。
財布を取り、部屋を出る。
「出かけるって言っといて」と、リビングにいるあゆに声をかけた。
「うん! お父さんに言えばいいんだよね」
にこやかに答えるあゆを見て、頬をゆるませる。あゆがお父さんと口にするたび、ゆるんだ頬がこわばっていた。
あゆのために『いいよ』と言いたいと思う。親父を見たら、簡単に言葉が出てこないかもしれないけど。
市内中心部にある文具店に来た。
あゆが喜ぶのは、アニメのキャラが表紙か、可愛い動物のイラストの表紙かのどちらかだと思った。
クレヨンは持っているけど、色鉛筆は持っていないかもしれない。絵を描くのが好きなら、色がたくさんあるほうが喜ぶのかも?
お絵かき帳と色鉛筆を選んで、レジに持っていく。
「プレゼントなので……ラッピングお願いします」
店員に言うのは恥ずかしいものなんだな……
「包装紙とリボン、こちらがありますが」
「ピンクの包装紙のクマのやつで、リボンは赤で」
「少々お待ちください」
誰かの笑顔を望む自分に驚く。
レジ横でその変化を認めた。
もしかしたら、鍵屋紗月を意識し始めてから、変化は始まっていたのかもしれない。
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