第50話
親父とあの人が、どういう
リビングでテレビを観ていたときだったと思う。親父があの人を連れてきて、真剣な顔で言った。
『この人と再婚したいと思う。陽太の気持ちが知りたい』
親父にたいする不信感が増していた。仕事だと言って工場にいる時間が増えていた。パートのあの人に経理以外の会社のことを教えているようなことを聞いたときからおかしいと思っていた。
母親を追い出して時間は経っていたけど、許せなかった。追い出しておきながら、自分もそうなのか、って。
離婚しているから問題ない。今の俺なら少しは納得できたんだろう。でもまだ、俺は小学生だったから。
じいちゃんとばあちゃんがいなくて、家で一人の時間が増えていた。
『俺は、いやだ』
テーブルを思い切り叩いた。
テーブルにあるコーヒーカップが揺れて、コーヒーが少しこぼれたのが見えた。
俺は、家を飛び出した。
ゲーセンで一人で遊んでいると、中学生の先輩たちと仲良くなった。それからは学校から帰るとすぐにそこに行くようになる。
親父とあの人は籍を入れないままだったけど、夕飯のときは必ず一緒にご飯を食べた。
あの人はそれまで住んでいた場所から、うちの近くのアパートに引っ越したらしかった。
一緒にご飯を食べるのがいやで、学校から帰るとすぐにゲーセンに向かった。
俺が小五のとき、あの人が妊娠した。
親父が嬉しそうにしていた。あんな顔を見たことはなかったから、気持ち悪いと思った。
デレデレしている。そして、親父の隣であの人は、気まずそうな笑顔で「ごめんね」と言ったんだった。
あの人の両親は、あの人が高校卒業してすぐくらいに亡くなったらしい。交通事故だと聞いている。
妊娠したことで、あの人はアパートを引き払い、 うちに住むようになった。
その頃、かなり気持ちがすさんでいたんだと思う。
ゲーセンにいる中高生たちに勧められて、たばこを吸った。高校生の先輩が運転する原チャリでニケツして、市内を走り回った。小学生にしては少しだけ背が高いほうだったから、パット見、違和感なくソコに染まっていたんだろう。
小学校を卒業してから何度も補導され、親父は中学や警察に頭を下げることが増えていた。
小学生の頃からそんな感じで、喧嘩も中高生に混ざってやっていたから、中二の頃には市内で俺が負ける相手はほとんどいなくなっていた。
あゆが産まれてから、家に帰っても、親父とあの人に会わないようにしていた。
『あゆだけは、嫌いにならないでほしいの』
あゆがつかまり立ちをするようになっていた頃、俺はあゆとあの人がいるリビングを横目に、玄関に向かっていた。
あゆが甲高い声ではしゃぐ。
それを聞くと落ち着かない。
あの人が俺を呼び止めて言った言葉に、俺はハッとした。
あゆは、悪くない。
親父とあの人が嫌いでも、あゆを嫌う理由はないんじゃないか?
妹だからというだけじゃない。
俺が再婚してほしくないと言ったせいで、あゆは及川歩歌になれなかった。
最初は、そういう罪の意識があった。だから、兄として接しようとした。
純粋に可愛いと思えるようになるまでに、時間はかからなかったと思う。
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