第45話

 毎朝、鍵屋紗月あの子を見ていると、見ていることに気づかれたのか目が合うようになった。


 自販機のことを覚えているか忘れたのか。それを気にしながら、ちらちらと視界の端で見てしまう。


 毎日、きれいに髪の毛を内巻きにセットしていること。

 かばんは買ったときのままで潰さずに使ってること。皮のかばんなら中に何も入らないくらい潰す。

 トキ高生ならみんなしている。かばんを潰すのは、他の高校なら全員がしてるわけじゃない。進学校なら、教科書やノートをいれるから潰せない。

 北河高校は進学校じゃないとはいっても、瑛美里ちゃんは篤史の真似かもしれないけど潰していた。


 あの子は真面目なんだろう。

 校則をしっかり守ってる優等生とまでは言わないけど、最低限の校則を守るような。

 お兄さんが鍵屋晴月。言われなかったらわからないくらい違う。比べられるのがいやだから、そうしてるのかもしれない。

 あの子に会うことがあっても――ないだろうけど――、恥ずかしくないくらい、これからは真面目に、勉強も頑張るかな……




 四月の終わり、いつものニ両目に乗ったあとも、あの子の視線を感じることが増えてくる。

 線路が邪魔だと思っても、話しかけることはないだろう、と。なんとなく、住んでる世界が違うような気がしていた。

 中学のころの自分のせいでここにいる。そうじゃなかったらトキ高に通うことはなかった。

 チームに入るのを断っていて良かった。

 過去はなかったことにはできないから、これからはできるだけ誠実でいよう。


 話しかける勇気がうまれるまでは。

 

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