第41話

「はじめましてー。遊木瑛美里です。あっちゃんとは中学からつきあっててー」

「瑛美里ちゃん、俺ぇ、川合義人。トキ高で篤史と同じクラスになったから、何かとつるもうかと思ってるんだけど……瑛美里ちゃん、かわいいね。友達、紹介して」

 川合が前のめりに里中の彼女に話しかけている。話し終わってないと思ったんだけど。

「川合くん? あたし、誰にでもかわいいって褒める男子は信用してないんだよね。そんなわけでー、友達を紹介できないよ。そのノリだと、遊んでる子いるでしょ? そういう人は彼氏には向いてない。ねー、あっちゃん?」

 川合の軽薄なノリを一瞬の早口でかわした。

「返す言葉がないだろ。川合」

 里中は、さすが瑛美里だなと笑っている。

 俺は笑えなかった。川合が遊び人に変わっていることに驚いたから。

 中一の頃の川合は、クラスの女子と話せないようなやつだった。

 人は変わるんだ……

「で、そっちの黒髪くんは名前なーに?」

 瑛美里ちゃんが、俺を見る。川合につられて下の名前で呼びそうになる。

「あっちゃんとはタイプ違うけど、カッコイイよね。モテるでしょ? 今は、殴られた痕があるからちょっと残念だけど」

「別に……」

「そういうの、どうでもいいんだね。硬派なんだー。川合くんとは真逆なんだねぇ」

「俺は、白水が地元で、名前は及川陽太。普通科だから、里中とはクラスが違う」

「違うの? 今日、初日じゃん。どこで知り合うの。もしかして……あっちゃんが喧嘩を止めたんでしょ!」

「そうだな。そうだったと思う」

「そっか。あっちゃん、喧嘩しない約束、守ってるね。喧嘩を止めても、あっちゃんは喧嘩してないでしょー?」

 うんうんと得意げな様子を見て、里中は瑛美里ちゃんの頭を撫でている。それからベタベタし始めて、俺は苦笑いを浮かべた。

「瑛美里は友達できたか?」

「地元の子が多いから、クラスメートは半分くらいが顔見知りなんだよね。友達になれそうな子はいるよ」

 二人の会話を聞いていていいのか悩みながら、とりあえず出されていたオレンジジュースを飲む。

「及川は、彼女欲しくならない?」

「なんで?」

「その反応はモテてきた男のやつだな。中学ンとき、いなかったのかよ」

 川合はそういう話にしか興味がないのか。遊び人だと聞いたし、なんでそうなるんだかわからない。

 確か……川合の親父って。

「お前、いま、かえるの子はかえるだとか思っただろ?」

 怒るのかと思ったけど違うらしい。

「親父が浮気ばかりで、それで離婚したからな。昔はムカついてたし、母親と俺が白水の母子寮でやってらんねぇなって。転校繰り返してたら、いろいろ吹っ切れたさ。どうせなら楽しく生きよう好きなようにしてやるって思ったわけよ」

 吹っ切れたってのは、悪いことではないんだろう。だからってパシリから喧嘩と女上等ってなるか、ふつう。

「おかげで顔が広くなったし、親父の遺伝子のおかげで女の子に苦労してない。恨むよりありがとうだろ?」

「川合がそう思うならいいんじゃねぇの」

 そうとしか言えない。

 恨むよりありがとう。そうなるまでに、川合にはいろいろあったんだろうから。

 俺にもそれはわかる。

 俺の母親が出ていったのも……

「川合くんって前向きだけど、彼氏にすると大変そうだね」

 瑛美里ちゃんが話にはいってきた。

「聞いてたんだ」

 川合がにこやかに言う。

「あっちゃんの友達なら悪く言いたくないけどー」

「まだ、そんなに仲いいわけじゃないぞ?」

 里中がにやけながら言った。

「篤史……ひどいなー」

「里中と川合は、今日会ったばかりだもんな」

 俺がそう言うと、

「及川くんとは古い友達?」

「古い知り合い程度だよな? なあ、川合」

 俺は少し意地悪く言ってみた。

「及川、お前の女性遍歴調べて暴いてやるぞー!?」

「冗談だよ。つうか、そんな遍歴なんかねぇよ」

「泣かせた女、いるだろ。知ってるぞ、告白してきた子を冷たくあしらうんだって?」

「その気ないんだから断るしかないだろ」

 川合の情報網が侮れない気がした。

「もしかして及川くん、まだ彼女できたことないの?」

 今度は瑛美里ちゃんが、うそだーと騒ぎながら冷やかし気味に言った。

「マジか……白水の有名人がまさかの」

 川合と里中、そして瑛美里ちゃんが笑う。

「及川くんになら、あたしの友達を紹介してあげる! 真面目だし、かっこいいし、言うことなさそう」

「彼氏の前でほかの男をそんなに褒めるなよ……」

 里中がむすっとしている。

 瑛美里ちゃんは、ごめんごめんと言いながら、オレンジジュースをコップに注いだ。

 

 

 

 

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