第39話

「教室行くんだろ。邪魔して悪かった」

「あー、こういうのあるだろうとは思ってたからな。俺は普通科、名前は――」

「及川だろ?」

 篤史はなぜか俺を知っていた。

「中学ンとき、白水しろみに行ったんだけどさ、そのとき見かけた。目つき悪くてやべぇのがいるんだなーって。白水じゃ、かなりの有名人だろ」

「めんどくせーな。それは忘れろよ」

「それはある意味高校デビューだな。真面目になるって?」

 篤史は笑ったけど、それから昔のことを話さなかった。ちゃんとしたやつなんだと、篤史のことを少し信用した。

「保健室行かずに教室行くのか?」

「ホームルームに遅れるだろ」

 俺の言葉に、篤史は笑った。馬鹿にしたような笑い方じゃないと感じて、俺も笑う。

「また、からまれないようにな。放課後、俺の地元のたこ焼き食いに行くんだけど、及川もどうだ?」

「わかった。駅で待ってる」


 教室に行くと、顔を腫らした俺は注目されていた。

「おまえ、及川だろ?」

 真ん中の列の一番うしろに座っているリーゼント頭の男が、俺を睨んでいた。

 しばらくはこんな感じなんだろうな。うぜぇ。

 やられてもやり返したりしなければ、そのうち何もなくなるだろう。

 無視して座席表を見て、自分の席に座る。

 ほかのやつらは、中学の卒アルを見て騒いでいるようだった。女の話をして盛り上がってるらしい。


「チーム断るっていい身分だなぁ?」

 リーゼント頭は、族のやつらしい。

「頭を黒くしても、白水の及川ってのみんな知ってんだよ。無駄だ」

「無駄かどうかは俺が決めるんだよ」

 反射でブチギレそうになったのをこらえる。

 無視シカトでいいだろ。相手にしたらキリがない。


「櫛田の中学に鍵屋晴月の妹いてさ。それがすげぇなんだわ。真面目ちゃん、ほらこの子」

 卒アル見ているやつらの会話が聞こえた。

「かわいいけど、なんかつまんなさそうな子だなー。晴月さんの妹じゃなかったら、誰も相手にしないんじゃねーの? いや、晴月さんの妹だったら手ぇ出せないか」

「微妙だな」

 ツラ見て決めんなよ……

 普通とか、つまんなさそうとか、失礼だな。

「あー、及川って晴月さんの妹、知ってるんじゃねぇの?」

 突然、俺に話を振ってきた。

 卒アル見ていたやつらは、しっかりリーゼント頭の話も聞いていたらしい。

「会ったことない。晴月さんも、名前しか知らない」

 俺がそう答えると、つまんねーなと言いながら、卒アルを見せてきた。


 鍵屋紗月――

 肩までの髪、前髪はやや長め。少し垂れ目でやや大きめの目。……かわいいと思うけど、そうじゃないのか?

 他の女は笑ってる写真なのに、一人だけ笑っていない。


「チームに入ってないなら知らないよなあ。すごく普通だけど、晴月さんの妹なら会ってみたいよなぁ」

「なんだ、それ。この子に興味があるんじゃなくて晴月さんっていう後ろ盾がほしいんじゃねぇか」

 中学のとき、喧嘩が強いとか白水で有名人だからとかで寄ってくる野郎や女がいた。そんなやつばっかりかよ……

「目ぇつけられるより、生ぬるく生きたいだろ。及川にはわからねーか」

 ……わかりたくない。

 めんどくさくなって、机に突っ伏して寝たフリをしておいた。


 

 



 

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