第34話

 四階と三階の間の踊り場にあるベンチに座ることにした。さっきのベンチのように離れて座らないようにする。

 改まって言うよりさっきの勢いで言いたかったけど、それはやっぱり違うよねと思う。


「及川くんは、わたしを誰かの妹っていう代名詞のわたしじゃなくて、わたしをちゃんと見てくれてる。それが嬉しい。

 及川くんの前だと自然体でいられるのがわかった。ちょっとずつ、及川くんを友達じゃなくて、特別な人として見てるように思えてきてる。

 これが、好きってことかわたしにはよくわからないんだけど、ちゃんと好きになりたいと思うから、友達じゃなくて……」


 ゆっくりと、溢れてくる言葉を頭の中でまとめながら口にする。ちゃんと言いたいことを伝えられているか、自信がない。


「及川くんの、彼女……として」


 緊張する。

 及川くんも、こんな風に緊張していたんだろうか。


「ちゃんと、つきあっていきたい……です。お願いします」


 最後のほうは、声が震えてしまった。

 わたしは、及川くんを直視できないでいる。及川くんの視線を観じるけど、うつむいたまま顔をあげられない。


「ありがとう。俺は、待つつもりだったから。思ってたより早く、その言葉が聞けてびっくりしてる」

「うん」


 びっくりしてるのは、わたしも。

 だけど、及川くんの声は落ち着いているように聞こえる。


「無理してない?」

「してないよ」

「だったら、顔をあげてほしい。目を見て話せるなら嬉しい……けど、無理か。無理そうだな」


 わたしは、顔を両手で覆っていた。

 顔をあげたけど恥ずかしくなってしまって、顔が火照ってしまう。


「目を見なくていいから。改めて、よろしく」

 

 及川くんの手が、顔を覆っていたわたしの手を取った。


 

 

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