第30話
バス停に着いて時刻表を確認する。
三分後。ちょうどいい時間だった。
「雨、やむといいな」及川くんがつぶやいた。「そうだね」と、わたしもつぶやく。
バスが時間通りに停まり、乗り込んだ。
座席は半分くらい空いていて、二人用のシートに座る。
二人用のシートって、こんなに狭かったかな?
わたしが窓際、及川くんは通路側。わたしの左腕と及川くんの右腕が、かなり密着している。
及川くんは、平然としてる。慣れてるのかな。中学生の頃に彼女いたのかもしれない。わたしは知らないけど有名な人だったなら目立っていたんだろう。
「……なに?」
「え? なにって、なにも……」
及川くんがわたしの顔の前に右手をひらひらさせている。
「なにか言いたげに見えた」
「そうなの?」
及川くんは、わたしの思考を読めるんじゃないかと思う。
「こういうデート、したことある?」
もやもやするくらいなら、聞いてしまおう。まだわたしは、彼女じゃない。
「あるように見えた?」
「うん。違うの?」
「そう見えたなら、鈍感なんだと思う。気を悪くしたならごめんな?」
本当に申し訳なさそうにしてるから、苦笑いをしておいた。
違うんだ……。
「今日の、これ。デートってことでいいんだな。友達同士だとそうは言わないだろ」
「そうだね。言わないよね」
及川くんは、黙ってしまう。
わたしは及川くんの気持ちを知っているのに、ちゃんと好きかどうかわからないから、付き合うのを保留にしている。
ひどい話だと、あらためて思う。鈍感と言われても仕方ない。
「次は、すずらん通り東口、お降りの方は押しボタンでお知らせください」
アナウンスに慌ててわたしは反応する。
「次だよ」
ボタンを押しながら、及川くんに伝える。それから財布から小銭を出しながら、バス停への停車を待った。
バスから降りると、雨はあがっていた。
折りたたみ傘をきれいにたたみ直して、ケースにいれる。
「先に
「そうだな」
通り沿いの六階建てのビルが丸一。
すずらん通りにはアーケード街があって、通り沿いには丸一以外にもテナントビルはいくつかある。
「鍵屋さんって、五月生まれ?」
「うん。わかりやすいよね。サツキ違いだから」
「晴月さんが八月?」
「そうなんだよね。名前つけるのが面倒だったんじゃないかってお兄ちゃんがよく言ってる」
「俺は、雨の日にうまれたから、太陽みたいに明るくなれって陽太になったらしい」
「雨の日だったんだ。何月うまれなの?」
「一月」
「誕生日、まだ先だね」
「鍵屋さんは、誕生日過ぎた?」
「うん。ゴールデンウィーク、三日だったから過ぎてるね」
「そっか。じゃあ、プレゼント選ぼう」
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