第23話
「わたしのこと、そんなふうに見てたんだね……」
「そのとおりでしょ。鍵屋ってだけで、いじめられないし先生からも叱られない。晴月さんやその周りの人が怖いから」
「先生は、そうじゃない。生活指導の先生は、わたしが悪いことしてるはずだって決めてかかってたよ。
何も言われたくないから、わたしは校則を守ってた。少しの違反も許されなかったよ。
反論なんてできない。やっぱり鍵屋の妹だな、って言われるから。
叱られなかったんじゃない。そうならないように頑張ってた」
そうしていたら、感情を出せなくなっていた。
中学に入ってから――
笑ってると『余裕かましてんじゃねぇよ』と、上級生からすれ違いざまに言われて……
涙を見せたら、『晴月さんの親衛隊にチクるなよ』と舌打ちしながら言われた。
むっとした表情をすると、『やっぱり妹もそっち系なんじゃない?』と、距離を置かれたこともある。
「鍵屋晴月の妹は、やめられないでしょ。だから」
そう話していると、いつもの電車が発車してしまった。
「七瀬が、わたしと一緒にいたのは、鍵屋晴月の妹だったからなんだね。卒業間際だから、わたしと距離を置こうと鳥生くんと付き合うようにしたの? 先輩が好きだったよね、あの頃。今も……なのかな?」
「鳥生くんが私を好きだって言ってくれた。鍵屋晴月の妹と仲良くするより、紗月の好きな人を奪うほうがいいじゃんって」
「鳥生くんの気持ちに応えようと思ったわけじゃないんだね……」
鍵屋晴月の妹というのは、どうしてこんなに、わたしを傷つけるんだろう。
鍵屋紗月として見てくれたのは、瑛美里が初めてだったんだ。
「七瀬は、鳥生くんを好きだったわけじゃなかったんだね。わたしのことは、どうでもいい。こういうのは、たいしたことないよ。でも、わたしを傷つけて優越感にひたりたかったってだけで鳥生くんを傷つけたんだよね……。ひどい。許せない……」
「どうして紗月が怒るのよ。今、好きな人いるんでしょ?」
「七瀬は、自分のことしか考えられないの?」
「みんな、そうじゃないの?」
これ以上、七瀬と話しても無駄だと思った。電車を待つ間、ここにいなきゃいけないけど、一緒にいたくない。
怒りとむなしさが、同時にわたしの中にある。
胃が、痛くなってきた。
わたしは七瀬に背を向け、改札口まで早足で向かう。定期をポケットから取り出し駅員さんに見せたあと、人の流れに逆らうように、駅の外に出た。
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