第22話

 七瀬は、ただのクラスメイトでやっぱり友達ではなかった。

 瑛美里なら、そうは言わないだろうなと、しみじみと思う。

「そうかもしれない」

 肯定も否定もしない。それでいいと思った。七瀬がどう解釈するかわからない。

 どうとらえてもいいや。そんな気持ちでわたしは「じゃあね」と言って、その場を離れた。

 今、鳥生くんのことは、どうだっていい。すっきりしたんだから、二人が別れたと聞いても、わたしには関係ないんだ。


 定期を見せて、一番線へ向かう。二番線には、及川くんがいた。

 わたしに気がついたらしく、小さく手を振ってくれた。わたしも、同じように返してみる。

 気になる人というのは、好きになる人と同義なんじゃないかと思う。

 及川くんは、わたしを好きだと言ってくれた。瑛美里を介して知り合う前から、わたしは及川くんを意識していた。前向きに考えていこう。

 過去の思いに、いつまでもとらわれていちゃだめだ。


 及川くんが乗った電車が発車したあと、わたしは空を仰ぐ。

「さっきのトキ高の人が、紗月が、今、好きな人?」

 七瀬が隣にいた。

「あれ? 違うの?」

「七瀬、学校は?」

「紗月の好きな人が気になったんだ」


 もう接点はたいのに、どうして七瀬が気にするんだろう。

「トキ高にしては、ヤンキーっぽくないよね。それに鳥生くんとタイプが違う」

「そうかな?」

「紗月はずるいね。いつも自分の意見をはっきり言わない」

 言わせないようにしてる自覚はないみたいだ。

 どんな返事をしても前のめりに聞いてくるから、わたしは多くを語らないようにしている。目立たないようにするには、それしかなかったから。


「いいよね。何かあっても、鍵屋晴月の名前でだいたいのことが解決するんだから」


 

 

 

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