第18話
「川井くん、紗月たちの邪魔しないでよ。モテるんだから、その顔に寄ってくる子たちを大事にしなよ?」
「川井は、及川に頭上がらねぇんだ。大丈夫だろ」
瑛美里と里中くんの言葉に、川井くんは、
「あいつに喧嘩売るわけないだろ。心配すんな。それより紗月ちゃんのおにーさんのほうが、ずっと怖いから」
と言う。
瑛美里と里中くんは顔を見合わせた。
「おにーさん?」と、瑛美里は首を傾げる。
及川くんと川井くんに、お兄ちゃんのことを話してしまっていたことを忘れていた。
瑛美里と里中くんは、知らないはず。
「紗月のおにーさん、川井くん知ってるの?」
「もしかしてあの鍵屋晴月?」
「有名なの?」
「昔、県内の族……」
「里中くん! ここでこの話は」
わたしは思わず大きな声を出して、話を終わらせようとした。
すると、川井くんが笑いながら言った。
「隠さなくても、そのうちバレるだろ。鍵屋ってあんまりない名前だから。及川の彼女になったら、それだけでこの界隈じゃ有名人。紗月ちゃんの
川井くんの言葉に、里中くんまで納得したのか頷いている。
「そうなれば、最強のオンナだな」
里中くんがしみじみ言った。
中学時代に、影で言われていた。
鍵屋紗月には、あの兄貴がいるから関わるな。怒らせるな。
鍵屋紗月と仲良くなっていれば、何かあったとき、兄貴が助けてくれるだろう。
親友と呼べる友達ができなかったのは、そのせいだと思う。もちろん、お兄ちゃんのせいだけじゃなく、わたしの淡白な態度にも原因があるのだろう。
鳥生くんも、もしかしたら……と、考えたことがある。
告白すらしていないのに、選ばれなかった理由をお兄ちゃんのせいにするのは違うと思っていても、引っかかっていた。
「隠さなくていいじゃん。お兄さんが誰であっても、あたしは変わらないよ」
「瑛美里は、ブレないからな。他人から何を言われても動じない」
「勝手に思わせておけばいいじゃん。おにーさんのことは、昔の話でしょ。今、関係ないから。紗月は紗月じゃん?」
中学までは、同級生だけじゃなく上級生や下級生そして先生からも、鍵屋晴月の妹として注目されたり、目をつけられたりしてきた。
どんなに真面目にしていても無駄だったから、表情を作るのをやめた。
瑛美里の言葉が、胸にしみる。
「ありがとう、瑛美里……」
気がついたら泣いていた。
「瑛美里ちゃん、紗月ちゃん泣かせてんじゃねぇか」
「違うよ、これは嬉し泣きだよ」
川井くんのからかう口調に、わたしは笑いながら言う。うまく笑えないけれど。
「瑛美里、今日は紗月ちゃんと帰ったらいい。瑛美里ン
「うん。そうする。紗月、ウチに行こう。じゃあ、またね」
瑛美里は、わたしの手を取り、里中くんと川井くんに手を振る。
わたしはハンカチで涙を拭きながら、軽く二人に手を振った。
瑛美里は、わたしが落ち着くまでゆっくり歩いている。
何も言わずにわたしの歩調に合わせてくれているのがわかる。
初めてできた親友だろう。
知り合ってからそんなに経っていないのに、わかってくれてるのが嬉しい。
「瑛美里のおかげで、気持ちを切り替えられるかも。ありがとう」
「紗月のことを、誰かの妹っていうふうにしか見てない人、あたしが見かけたら文句言ってあげるから!」
「学校の先生でも?」
「もちろん! 紗月をちゃんと見なさいって言うよ」
「すごい。瑛美里、かっこいいね」
それからは、くだらない話をしながら、瑛美里の家に向かった。
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