三、触れ合える距離

第17話

 翌日の朝、教室に入るとすぐに

「どうだった?」

 と、瑛美里に聞かれた。

「電車降りてバスに乗ろうとしたら、川井くんがいて、及川くんの家まで迷わず行けて助かったんだよ」

「それって紗月のあとをつけてたってことじゃない。紗月が助かったならいいけど、及川くんにとっては迷惑だよね」

「そう……なのかな」


 及川くんの言葉を思い出す。

 好きだと、言ってくれたこと。


「んー紗月ぃ? 顔が少し赤いよぉ。及川くんの風邪がうつった? それとも告白された?」

「え……」

「紗月って、そんなふうにわかりやすく照れるんだぁ」


 にやけながら瑛美里に言われて、わたしは両手で顔を覆う。

「感情をめったに顔に出さないから、そういうとこ見たら、かわいいってなるんだろうな。及川くん」 

 そこでチャイムが鳴り、瑛美里の冷やかしから逃れることができた。


 

 放課後、瑛美里に駅の近くのたこ焼き屋に行こうと誘われた。

「里中くんと待ち合わせしてるの?」

「してないよ。約束してないのに会えたら嬉しいじゃん。いなかったら、夜に電話するんだよ」


 駅に向かいながら、瑛美里は「会えるかな、会えたらいいな」と、頬をゆるませている。

 駅を通り過ぎてたこ焼き屋の前に着くと、店の前に里中くんと川井くんがいた。


「あっちゃん、やっぱりいた!」

「おう」

 瑛美里が、里中くんの腕にしがみついた。里中くんは、瑛美里のかばんをさりげなく持つ。

「及川、今日はこっち来てないよ。まっすぐ家に帰ったんじゃない?」

 川井くんの言葉に、少しがっかりした自分に気づく。

 

「あいつは家が遠いからなぁ」

 里中くんが、わたしの気持ちを察したように、しみじみと言った。

「会いたいなら、放課後会えばいいじゃん」

「そんな、そういうんじゃないし……」

 瑛美里の言葉を否定するように、少し強く言ってしまう。

 

 付き合ってるわけじゃない。

 わたしの気持ちが、そうだと断言しきれない。

 

「わかんねぇなあ。及川が紗月ちゃんを好きなら、受け容れたらいいだけじゃねぇの? つけ入る隙があるなら、俺も頑張っていい?」

「川井くんは、だめ。あちこちに自称彼女がいるような人に、紗月は渡さないよ!」

「瑛美里ちゃんが紗月ちゃんの彼氏みたいだなあ。及川より怖いかも」

「瑛美里と及川なら、どっちも怒らせたら同じくらい、やべーよ」

「そうだよなあ」


 三人が笑いあうそばで、わたしは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る