第16話
「そろそろ帰るね。お見舞いだったのに、ごめん。長居しちゃって」
時計をみると、お昼の時間を過ぎていた。さっきのスーパーで惣菜を買って、公園で食べてから帰ろう――そう思っていると、
「昼飯、どこかに食いに行く? そのあと、駅まで送る」
と、及川くんが言うので、わたしは慌ててしまった。
「風邪ひいて、学校休んでるのにだめだよ」
「熱は下がってる。咳もそんなに出てないから平気」
「休まなきゃいけないくらい、熱が高かったんでしょ。だめだよ」
わたしの言葉に、及川くんは黙りこむ。少し不機嫌にみえるきがするのは、気のせいかな。
「そう、だな。じゃあ、土曜日に昼飯。今日、いろいろ金使わせてしまったから、お詫びというかお見舞いのお礼だな。土曜は全部俺がおごるから」
「うん」
そう応えると、及川くんは満足そうに微笑んだ。
「土曜は、櫛田で待ち合わせな? その次があるなら、また、こっちに来て、海行ったり……」
「次あるならって、ないと思うの?」
「鍵屋さんがいいなら、会ってほしい。電話も、また」
わたしは、そのときの笑顔を、きっと、ずっと、忘れらないと思った。
及川くんの笑顔は、わたしまでにこやかになる。幸せな気分になる。
この気持ちが、まだ恋愛の好きじゃないのかわからなくて、もやもやしてしまっていた。
及川くんに玄関先まで見送ってもらったあと、わたしはスーパーで惣菜を買って、散策して見つけた公園でそれを食べることにした。
近くの中学から、学生の声がきこえている。たぶん、及川くんがそこに通っていたんだろう。
どんな中学生だったんだろう。
その頃に知り合っていたら、気になる人になっていたかな。
気になるというのがイコール好きだと限らない。少なくともわたしは、そうだから。
でも、及川くんは、わたしを――
さっき言われた言葉を思い出すと、顔が熱くなってきた。
え、告白されたような?
冷静に返してしまった。すごく、冷たい言い方したような。
ありがとうも言わずに……
なんでもっと、ちゃんとていねいに考えなかったんだろう。
ひどいよね。
急にご飯がのどを通らなくなってきた。
わたしがきちんと向き合えるようになるまで、待ってくれる。
同じように好きになるか、わからなくても?
わたしだったら待てなくて、逃げ出してしまいそう。
だから、逃げたりしないで、ちゃんと及川くんを知っていこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます