第13話

「熱があるって言っただろ」

「じゃあ、なんで起きてるんだ。熱が下がったなら学校行けばいいだろう。おまえの理屈に合わせるならな。約束は約束だ。高校は辞めろ」


 及川くんとお父さんの険悪な雰囲気。どうにかおさめたいのに、何も思いつかない。

 やっぱり辞めるという話なんだ……


「おじさん、落ち着いてください」

 川井くんが、睨み合ったような二人の間に立っていた。

「どうした。義人よしとまでサボりか? オンナ連れてきてチャラチャラしてんだなあ?」


 川井くんの言動が、火に油を注いだような気がしたわたしは、軽く深呼吸したあと、

「初めまして。鍵屋といいます。及川くんと川井くんと仲良くさせてもらってます。わたしと川井くんは、お見舞いに来たんです。欠席しない約束の話を聞いたので、心配になったので」

 と、一気に喋って、息苦しくなってしまった。


「学校サボってまで見舞うのは、よくないな。陽太が中学の頃、学校休んで遊んだり暴力事件おこしたりしたから、そういう約束をさせたんだ。自業自得だろう。やめたくなければ、熱があっても学校に行けばいい話だろう」


「差し出がましいことを言います。

 暴力事件とか、たしかによくないことをしていたのかもしれません。

 過去の過ちを反省して乗り越えようとする人の未来を、親が……大人が阻むのは、違うと思います。

 わたしの兄は、悪いことをして高校中退しました。今は反省して真面目に会社員をしています。

 誰かがチャンスを与えなかったら、過去の悪事でその人の未来をつぶすことになりませんか?

 消しようがない過去です。何かと引きずり出させることはあるかと思います。

 誰かが、それでも、……ヒトは変わると信じないと……」


 わたしの言葉に、おじさんは

「わかった。次はないからな」

 と、大きな声で言ったあと、リビングを出ていった。


 図々しいことをしたかもしれない。他人の家のやり方に口を出すなんて。

 ちらりと横目で及川くんを見ると、うつむいたままで、表情がわからない。


「紗月ちゃんのお兄さんって、もしかして……晴月はづきさん? 鍵屋って聞いたことあるなって思ったんだよな」

 川井くんが、しみじみと、「だから、トキ高の俺らみたいなの見ても動じなかったんだなあ」と言った。


「親父を言い負かすって、すごいな。鍵屋晴月を見慣れていたらビビったりしないってことか」

 うつむいていた及川くんは、どうやら笑いをこらえていたらしく……

「笑わないで……」


 急にいろいろと、冷静になってきた。学校休んで、及川くんの家に来て、お父さんに強く意見してしまうなんて。


 ただの友達で、しかも知り合って話すようになって、ほんの一日だけの仲で、こんな……


「ごめんなさい! 図々しいよね。いろいろ言い過ぎたし踏み込み過ぎたよね」

 


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