第11話

「おはよう……」

 挨拶をしてから及川くんの反応を見ていると、来ちゃいけなかったように感じる。気まずさが増してしまってうつむいてしまう。

「どうして川井とここに?」

 及川くんの口調で、気まずさが増してきた。

「おまえさ、どうしてって、それはないだろ」

 川井くんが呆れた口調で言う。

「風邪で休んだって聞いたから、ここに来たんだろうが。篤史が紗月ちゃんに話したんだよ」

「ああ、そういうことか」

「わかったなら、玄関先じゃなくて家にあがらせてくれないかなー?」


 川井くんの言葉で、わたしと川井くんはリビングに案内された。

「親父は工場で、あの人は買い物だから……今は俺しかいない」

「体調は、大丈夫なの?」

 わたしはそう言いながら、りんごとスポーツドリンクを渡す。

「熱は下がって、咳のほうは今、落ち着いてる」

「休むってことは、やっぱり学校辞めなきゃいけないんじゃねぇの?」

「それは、あとで話し合う。親父が今、いそぎの仕事してるから、それが終わらないと」


 休まずに学校へ行く約束を破れば、高校を辞めなきゃいけない……というのは、本当らしい。

 納得できない。わたしが怒ることじゃないのはわかってる。


「どうしてそんな話になるの。体調崩すことくらい、誰だってあるでしょ」

「中学の頃、かなり迷惑かけたんだ。出席日数や内申、いろいろひどすぎて、私立で受けられる高校がトキ高しかなかった」


 そう言われたら、返す言葉がない。

 それでも、子供の将来に関わることを体調不良での欠席で決めていいのかと、腑に落ちない部分もある。


「人んの事情に、口出しできねぇだろ? 紗月ちゃん」

 川井くんに言われても、納得できない。どうしてこんなに、もやもやするんだろう。


「たとえばだけどー、この状況が俺だったら、どうしてた?」

 川井くんが、軽い口調で投げかけてくる。語尾をのばして、すごく適当な雰囲気。


「え、それは――」

 何もしていなかった。さすがに口に出せなくて、言い淀んでしまう。

「やっぱりぃ? 俺がこの状況だったら何もしないだろ。及川のことは他人だけど、気になり過ぎて他人じゃねぇって、そういうのがあるからだろ?」


 気まずさの方向が変わってしまう。

 まるでわたしが、及川くんに関心があって、それだけじゃなくて好きだと言っているかのような。

 恋愛の好きじゃなくて、友達としての好きなら、まったくないと言い切れない。

 

「あら、お友達、来ているのね」

 そこで、及川くんのお母さんが帰ってきた。昨日、電話越しに聞いた声だ。

「川井くんと、川井くんの彼女? こんにちは」

「川井の彼女じゃねぇよ」

「なぁに、じゃあ、陽太くんの彼女なの? もしかして、昨日の電話の子!?」


 

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