第10話

「川井くん、学校は?」

「紗月ちゃんと同じでサボり。紗月ちゃんは瑛美里ちゃんに頼んでうまくサボったんだろ?」

「そうだね。それを知ってるってことは……駅で、話を聞いてた?」

「紗月ちゃんは真面目だから、無断欠席したくなかったんだろ?」

「親に連絡されたら困るので」

「真面目だね。トキ高にはそんなやつ、いないから」

 そんな話をしていると、バスが到着した。

 バスの座席は、一人用の座席を選んだ。

「紗月ちゃんって、俺のこと苦手だろ?」

「よく知らない男子と隣に座りたくないだけです」

「知り合ったばかりの及川の欠席は、気になるんだねー。わざわざ知らない町に行くぐらい」

 わたしの後ろの座席から、大きめの声で話してくる。

「声のトーン、落としてくれる?」

「及川より冷たいね、紗月ちゃんは」

 わたしは、それから話しかけられても無視することにした。

 及川くんの家を知ってるのは助かる。だけど馴れ馴れしいのは苦手。


「次は、開西寺、開西寺、お降りのお客様は――」

 開西寺に着いた。

 バスを降りてから、川井くんに訊ねる。

「この近くのスーパー知ってるかな」

「買い物? 何、買うの?」

「及川くん、風邪でしょ。風邪なら果物じゃないかな」

「あいつ、りんごが好きなはずだよ」

「よく知ってるね。川井くんは、及川くんと同じ普通科なの? それとも昔からの知り合い?」


 スーパーまでの道を案内してもらいながら、わたしは質問していた。

 川井くんは苦手だけど、及川くんの話が聞けるし、道案内をしてもらわなきゃいけないし……

 

「中学の頃に少し知り合いになって、高校で再会したんだよねー」

「そうなの? 川井くんも白水に住んでたの? でも今は違うよね」

「いろいろあるんだよ」

 川井くんは、そこで「俺のことは興味ないんだろ?」と、苦笑いを浮かべた。

「及川の中学時代は、かなり荒れてたんだよ。知らないんだっけ」

「うん」

「知りたいなら、本人に教えてもらえよ。俺は何も話せないからな」


 角を曲がったところにスーパーがあり、わたしは川井くんを待たせて、りんご一個とスポーツドリンクを買った。 


「この道をまっすぐ行ってつきあたったところが、白水北中学。そこを左に行けば、及川の家があるよ。隣に工場あるからすぐわかるはず」

「ありがとう。川井くんは、行かないの?」

「あいつの親父が苦手なんだよ」

「ふぅん。でも、わたしが突然行くのはおかしいんじゃないかな?」

「それ、わかってんなら駅で思いとどまるとこじゃねぇの? 紗月ちゃん、しっかりしてるのか天然なのか……」

 川井くんは、ため息をついて、

「仕方ないな。一緒に行ってやる。でも、あいつはいやがるだろうな」

「そうなの?」

「……はあ」

 あきれた表情の川井くんは、スーパーの袋をわたしから奪い取る。

「度胸あるというより鈍感なんじゃねぇか……」

 そうつぶやいたのは、しっかり聞こえていた。


 及川くんの家のチャイムを鳴らす。川井くんは、門扉もんぴを開けて勝手に玄関前まで行ってしまった。

「こんにちはー」

 玄関のドアを開けながら、川井くんが大きな声で言う。

 しばらくすると玄関が開いて、 

「なんで、川井がいる……」

 風邪だと聞いていた及川くんが、ドアの隙間から見えた。

「え……鍵屋さん?」

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