第2話

「瑛美里の友達っつうから、似たようなマイルドヤンキーちゃんだと思ってたけど、優等生タイプじゃん。意外だな」

 待ち合わせ場所に現れた瑛美里の彼氏は、開口一番こう言った。


「そういえば瑛美里は中一の最初の頃、こんな感じだったよな。その頃も可愛かったけど、今のほうが俺は好きだな。えっと……紗月ちゃんだっけ。瑛美里って可愛いよなあ?」


 馴れ馴れしい人が苦手。

 最初から距離をつめてくる人が嫌いなんだと思う。こんなふうに同意を求められると頷くしかない。でも、瑛美里が可愛いのは同意だ。そこは素直にうなずく。


 こんな感じのヤンキー、実は苦手じゃない。

 わたしには年の離れたお兄ちゃんがいて、ずっと昔ヤンキーだったから。お兄ちゃんの周りにいた人のほうが、怖い雰囲気の人が多かったと思う。チャラい人はいなかったかな。


「やめてよ。紗月を怖がらせないでよね。あっちゃんって笑ってないと怖くみえるんだから」

 瑛美里は、彼氏の腕を引っ張ったあと、腕を組んでみせた。


「え、俺、怖かった? ごめんな」

 瑛美里の指摘で謝る彼は、くしゃっとした笑顔をみせる。

 たしかに笑うと可愛い雰囲気で、怖さはなくなるみたい。


「大丈夫です。怖くないです。それより、どこか座りませんか」


 駅の構内のど真ん中で、妙に目立っていることを理解してもらいたくて、そう促してみる。


「そうだな。あいつ、まだ来れないから。一本遅い電車になるみたいでさ。反省文書かなきゃならねえっつってた」

「反省文? 今度は何? 及川くん、また誰かをかばったの?」

 ひとまず、駅の売店に向かいながら歩いている。

 及川くんという人が、今日の紹介の人なんだろうか。反省文っていうことは、校則違反わるいことしたのかな。


「あいつ、要領いいのか悪いのかわからねぇからな。妙に仲間思いっつうか」

「いい人だよねぇ、及川くん。そんな感じが紗月と合いそうだと思うんだよ」

 合いそうと言われても、よくわからない。

「飲み物買ったら、駅前のたこ焼き屋に行こうよ。あの店、飲み物の持ち込みOKだから」


 駅前のたこ焼き屋は、北河きたがわ界隈に住むトキ高生のたまり場でもあるらしい。

 この駅は、わたしと瑛美里が通う北河きたがわ高校――略してガワ高――の最寄り駅。この町は、トキ高生が多い地域で、瑛美里とその彼氏の地元だったりする。

「そうだな。じゃあ、及川に伝えとくか」

 伝えるって、どうするんだろう? そう思っていると、瑛美里の彼氏はすれ違ったトキ高の男子に話しかけている。

「及川見かけたら、たこ焼き食ってるって伝えて」

「おう。ほかのヤツにも言うとくわ」

 伝言ゲームみたいな伝え方。これでうまくいくんだと、少し感心した。

 瑛美里の彼氏と及川くんが、顔が広いというのがわかる。


 たこ焼き屋の一番奥のテーブルには、強面こわもての三年生のトキ校生がいた。

「おう、篤史あつしか。連れがいるんなら、席譲るぞ」

「いいんすか? 及川も呼んでるんで、その席空けてもらえたら助かります」

「うしろにいるんは、篤史の彼女と及川の彼女か?」

「先輩、あたし、遊木ですよ」

「遊木か。久しぶりだな、覚えてるぞ。中学ンとき、体育祭で同じグループだったろ。篤史の彼女オンナになったんだな。よかったじゃねぇか。ゆっくりせぇよ」


 瑛美里の知ってる先輩というのがわかって、わたしは目があってすぐに頭を軽くさげてみた。

 及川くんの彼女として覚えられるのは、困るけど……


 瑛美里と彼氏の里中くんが仲良く話している横で、わたしはジュースを飲みながら、ときどき会話の相槌を打つ。

 わたし、何してんだろう? 

 彼氏が欲しいわけじゃないのに、ここにいるのは違うように思う。帰りたいけど、この雰囲気からは言い出しにくい。

 入口近くには、トキ校生たちがいる。帰るなんて、言えない。さりげなく席を立つのも無理そう。


「紗月、たこ焼き食べないの?」

 ジュースばかり飲んでいたみたいで、瑛美里が訊ねてきた。

「うん、食べるよ」

 ひとつ、爪楊枝で取ろうとしたとき――


「及川、なんで川井まで連れてきてんだよ」

 と言う里中くんの言葉に、はっとした。

 わたしたちがいる奥の席に、二人のトキ校生が近づいてくる。そこに、電車の彼がいた。


 なんで?

 どっちが及川くん?

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