第26話 一つの時代の終わり

 ダンジョン攻略から王都に帰還して少し経ったある日。


 驚天動地の情報がルシタニア王国全土に駆け巡ったのである。





 "王が倒れた"




 

 王都でも農村でも酒場でも商店でも、この話題で持ちきりであった。


「おい、王様が倒れてしまったらしいぞ」


「ええ! 一体どうしちゃったんだよ」


「なんでも吐血してそのまま意識を失ったとか」


「え、死んじゃうの?」


「王様好きだったんだけどな……」


「そうだよ。年貢を巻き上げて私腹を肥やす貴族と違って、立派なお方だったのに……」



 この情報は、もちろん秋山達にも伝わっていた。



「何だって! 王が倒れた!?」


 これには流石の秋山も大いに衝撃を受けた。


 まずい……これは非常にまずい。今現在、ルシタニア王国は内政も外政も危機的状況にあるのだぞ。


 

 そして、勢いよくドアが開きアテナが息を切らして部屋に入ってきた。



「はぁ、はぁ。聞きました? 王様が倒れたと」


「ああ。聞いたさ」


「吐血したって気を失ったって……」


「そうみたいだな。一旦エリスに会って詳細を聞こう」


「はい」


 我々は斜め向かいのエリスの部屋へと向かった。


「おーいエリス? 居るか?」


 しかし返事は無い。


「部屋に居ないのでしょうか?」


「うーん」


 私がレバーに手をかけると、鍵が掛かってないらしくドアが開いた。


 中に入ると、エリスがベッドの端で縮こまっている。


「おお、居たのか」


「エリスさん大丈夫ですか?」


「……」


「国王陛下……君の父上の状態はどうなっているのだ?」


「…………お父様は」


 エリスのその表情は酷く辛そうなものであった。


「お父様はもう……危篤状態です」


「ま、まさか!?」


 信じられん。それほど状況が悪化していたとは……。


「一度会わせてくれないだろうか?」


「……良いですわよ」



 我々は王の居る部屋へと向かった。



「こちらです」


 その部屋には、医者と見られる人物と側近が5人ばかり居る。彼らは天蓋付きベッドを取り囲み、そこに王が附していた。


「おお……秋山殿アテナ殿、良く来てくれた」


「王陛下……」



 顔に生気は無く、振り絞るような声で話を続けた。



「私は見ての通り、もう長く生きることは出来んだろう。


 王としてこのルシタニア王国を統治してきたが、結局何もしてやれんかった。非常に無念だ。


 この国は、国土が小さくとも土地は肥沃で豊かな自然が存在し、民も質素であるがそう悪くない暮らしを送っている。私はそんなこの国が大好きだ。


 そう、この国は只人に残された数少ない土地。何としても守らなければならないのだ」



 ※只人 魔法を使用出来ない人類



「だが……、私の先は長くない。こんな状況で娘に国を託してしまうこと、非常に申し訳なく思っている。


 そこで秋山殿アテナ殿、ぜひエリスを支えてやって欲しい。彼女はまだ知識も経験も少ない。君たちの力が必要なのだ」



 王よ……あなたは素晴らしい。死の間際にあっても国家と娘のことを考えるその姿勢、私も見習わなければ。



「ええ。ぜひ私たちに任せてください」


「ありがとう。本当にありがとう」



 この重大な責務、しかと受け取った。



「そしてエリスよ……」


「……お父様」


「国を治めるということは想像以上に大変だ。そなたの行く先には幾多もの困難や障害が待ち受けているだろう」


「はい……」 


「故に、一人で抱え込んではいけない。何か困ったことがあれば彼らを頼るのだ」


「ええ……ええ。分かりましたわお父様」



 そして、王とエリスは抱擁を交わす。双方とも目から大粒の涙が零れ、感情が堰を切って溢れ出た。


 いくら王と言えど、この時ばかりは最愛の娘を愛する父親として振舞った。



「うぅっ、お父様あぁ……。いやだ、死なないでぇ」


「エリス、エリス、ごめんな。もっと一緒に居たかった。もっと、もっと……」



 素晴らしい親子愛。王族に生まれなければ、もっと普通の生活を送れたのだろうか……。



「ううっ。ぐすっ」


 アテナも目に涙を浮かべている。アンドロイドながら彼女も感じるものがあるのだろう。



 部屋には泣き声だけが響く。皆、王の人柄と善政を知っているだけあって深い悲しみに暮れた。





 そしてこの日の夜、王は亡くなる。46歳の若さであった。




 聖歴1250年9月25日 国王エドワード・ラ・ルシタニア崩御。


 

 この話題は、国の内外問わず大きな反響を呼んだ。ルシタニアにおいて、一つの時代が終わったのである。



 

 国中が深い悲しみに暮れている中、衝撃的な情報が飛び込んできた。






「エトルリア軍が国境地帯を突破!!!」



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