第8話

女神さまの賢者?なんだそれは?


アリーシャに肩をわしづかみにされ、がくがくされながら必死に考えたが、わからん。女神さまの魔法使い的な?

[ちょっと…やめ…」いい加減に首が痛くなりそうなんだが?


《大丈夫?》今だにドラゴンフォームのウサが流石に俺のポンコツ差にあきれたのか、でかい頭を横から突っ込んできた。同時にアリーシャが「ひっ⁉」と小声で漏らしつつ俺から離れてくれたので、やっと首のがくがくから解放された。


《助かった、ありがとな》首をさすりながら肩も痛いと脳内で愚痴りながら思ったことは、アリーシャが基準ならこの娘戦士たちちょっと腕力が強すぎない?俺もだいぶ鍛えていると思ったけど、この娘たち俺と平等かその上を行っているぞ。


「とにかく、全員を一か所に集めてくれないか?そのほうが治療しやすいんで」

そう、今は軽症だが、もし化膿したり後遺症でも出たら笑えんから。


「済まない、わかった今すぐに」と言いつつ、大声で仲間に指図するアリーシャを見ているだけでドキドキしてしまう。なんなんだよまったく、傷だらけの鎧を身に着けて怒鳴っている姿も美女そのもの。無駄に美しすぎる女性って、いるんだな…


…すみません、俺が美女に免疫がないだけです、はい。


集まった娘戦士たちに同じく周囲に魔力濃度を上げたのち、「ヒールオール」を繰り返す。

その直後、彼女たちから驚きの声が上がった。

「わ、私の指が!」とか、「ひざの痛みが、亡くなった」、「息苦しさが消えた⁉」やら、俺も何が何だかわからなかったが、全員の持病や痛みや、体の失った一部などを癒してしまったようだ。


えっ?なぜ?と思いつつ、すぐに答えが出た。「ヒールオール」を唱える直前に脳内では肉体と体内の正常化を唱えていることに。つまり、もし彼女らの体に何らかの異常があれば、すべてが元に戻る。

まあ呼び方はどうでもいいが、イメージ通りにみんなの体が治せてよかった!ぶっちゃけ失敗したらどうしようかと思った。


そんな風にいろいろと考えにふけっていたその時、アリーシャとエリッサが俺の前で跪き、残った娘戦士たちも素早くアリーシャたちと同じく跪く。


「ベム殿、私達は多数の敵から追われているところだ。どうかベム殿の力を貸してほしい。今となっては貴殿に頼ることしかできない現状だ」


アリーシャが藁にも縋るような目つきで俺に嘆願する。


これは反則だろ、30人もの美女にこんな必死に頼まれたら助けないという選択肢は俺の中にないんだよ。


「わかった、わかったから、みんなもまだ疲れているだろ、ちょっと待って」

俺はあたりを見回すが、小休憩をとれるような場所はあたりにない。



まあ、無ければ作るまでだ。


俺は地面の土を使用して全員が座れるほどのベンチとテーブルを魔力で型作り、それに圧力を加え固定する。日光を遮る屋根も必要なので、同じく設置する。


土砂崩れのような音を立てながら次々と現れる物体に目を丸くして見つめている娘戦士たちの表情からして、魔力を使用できる人間はいないのではないか?とおもってしまう。


「ほら、座ってくれ、話はそれからだ」


腰を下ろすと同時に頭をテーブルに乗せ、ぐったりとしている娘たちも少なくない。疲労が大分たまっていたようだ。


俺は同じ方法で、500mLほどのマグカップを全員に作り、魔力を操作し糖分、塩分、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等が入った飲料水をコップに造る。


全員にそれを渡し、「ゆっくりと飲んでくれよ」と注意する。脱水状態でがぶ飲みするとまずいからな。


一口飲んだ娘たちが「甘いぞ、砂糖が入っている!」とか、「おいしい!」とか騒いでいるのが聞こえる。


まあ、前世の記憶からポカリ何とかもどきを再現しただけだが、喜んでくれたらいいか。作るのも比較的に簡単。塩分、酸素、水素、カリウムなどのイオンは大気と土からいくらでも取れるからな.

因みに砂糖はスクロース溶液、それにC12H22O11二糖類を思い浮かべたら正確に造れた。魔力値が高くてよかったわ。


俺はアリーシャとエリッサのベンチに座り、二人がポカリもどきを飲み終えるのを待ちながら、ウサとリズにサイシアン民についての知識があるか聞くと帰ってきた答えは、

《僕らは、女神さまから授かったあの湖の周辺から離れたことがないから》

《私も外のことは何も知らない》だった。


その返答にびっくりしたが、確かにな。あの女神さまの湖を防御することがメインのウサたちはあの高台から離れないゆえに、外の世界の知識が皆無だった。


《なあ、ウサ、この娘戦士たちとも俺みたいに念話で話せるのか?》


《うーん、どうかな?この娘たち、魔力値が低すぎるかも》といった答えが返ってくる。


《え?彼女らの魔力直そんなに低いのか?》俺は知らなかったぞ。


《...あのさ、僕たちは女神さまの魔力が沸き上がる原点地に存在しているんだよ、正確にこの世の理を理解していたら殆ど何でもできる》少しあきれたような顔をしていた。いや、ドラゴンの呆れた顔って、読めるのか俺…


《確か女神さまによると、魔力の脈水が地下水のように大陸中に流れていると聞いたんだが》


《うん、でも私たちの湖から距離があればあるほど、急激に魔力が失われるから。もうこの辺の生き物はもう僕らの1/100ぐらいしか使用できない》と、リズが足し加える。


リズの説明を聞いて納得してしまった。多分この魔力減少の仕方、一キロ単位で減って行く自然対数のようだ。樹海の境界で1/100とか、もうここから先は魔力など皆無といってもおかしくないレベルだ。


《え?でも今俺たちは中心部からだいぶ離れてるけど魔力に困っていないよな、エレクトロンボールも問題なく使用できたし》


《うーん、それは僕たちがその魔力を保つ器を体内に持っているから》


《そして魔力器のサイズは生まれつきのものなの。私たちみたいに女神さまの湖で生を受けた子たちは、巨大な器を持っている。》


《それって、俺にもあるのか?》あるのは理解できるが、つい聞いてしまった。俺って正確に言うと、生まれはこの世界でもないようだし。


《あなたは特別よ》リズが俺の胸の中心に手を置き、《女神さまがあなたの魂を湖の底で200年ぐらい眠らせていたから私たちより遥かに量がある。》


この真実を知った俺はちょっとショックだった。200年って、俺は古漬けかよ!いや、それどころじゃないわ。



アリーシャたちに目を向けると俺が与えたポカリもどきを丁度飲み終えたようだ。コップをテーブルに置き、満足そうなため息をついていた。


「えっと、体の具合はどうだ?」多分感知していると思うが一応アリーシャたちに聞いてみる。


「ベム殿、信じられないほど調子がいいぞ。ありがとう。貴殿には感謝しきれない」

「私も、命を救っていただき、ありがとうございます!」

エリッサがテーブルから乗り出し、俺の片手をがしっと掴まれた。


すると、ほかの娘戦士たちからも大声で「ありがとう!」やら「あなたは命の恩人だ!」など感謝の言葉が飛び交ってきた、大勢の美女たちから感謝されるなんて俺が死ぬからよして。


それと「あ、ああ、みんなが無事でよかった、あの、手…離して…」なんか、俺の顔が熱いんだが。


「あ、ごめんなさい」しゅんとしながら手を放すエリッサ。


どうして謝るんだ?「とにかく、誰に、なぜ追われているのか教えてくれないか?俺もたった今樹海の中心部からここへ来たところ、君たちがゴブリンと苦戦しているのを目撃したんでな」


それを聞いた娘たちが皆そろってざわついた。

「死の森に棲んでいたのか?」「ドラゴンを従えている賢者様だからこそ生きて帰ってこれたんだろう」


また賢者か、後で詳しく聞いてみよう。


「そうだな、私たちはノマド族でな、ここカリエスタ王国を拠点にし国中を旅する民族だ。今年も同じく国内を巡りながら村や町で依頼をこなしたり、交易を行ったりして生業を立てていたんだ」

アリーシャの表情が険しくなった。

「私達は何十世代ととこの生活を続けていたが特に問題は起きなかった、そう今までは。何故か知らないが、隣国に当たるゴルビア帝国の兵士たちが私たちを襲ってきたのだ。私達の40人に対し敵数は500ほど。勝算は極めて低かった」


「ちょっと待て、どうやって逃げ切ったんだ?」といった途端に後悔した。エリッサが静かに泣き出したのだ。


「それは、私たちの母上達が時間を稼いでくれたからだ。たったの10人で500人を谷間の道で防ぎ、私たちが逃げる時間を…」


俺の顔から血の気が引いた。それと同時に恐ろしいほどの怒りを覚えた。

「待ってくれ、君たちの母親はその後どうなったか知っているものは?」


しばらくの間沈黙が続き、「戦死したか、捕虜としてとらえられ奴隷にされたか、どちらかはわかりません」とエリッサが絶望的な声で答えた。


このままではいけない。俺ができることをしないと女神さまに申し訳が立たない。



「アリーシャ、君たちの母上たちを助けに行くぞ」俺は無意識にそう言い放っていた。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「努力」のみで異世界に右も左もわからないまま放り出された? @ozawasoujin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ