第7話
「やべっ!!」
戦士たちがゴブリンに包囲され、や無負えなく円の陣を取りながらゴブリンたちの襲撃を跳ね返しているが、また二人が倒れた。
空中から見下ろすため距離感を誤っていたのか、戦闘から2キロ頬の距離がある。
ウサもちょうど減速したところだ、あそこまでたどり着くには2分ほどかかるかも。
戦闘での2分間は何が起こってもおかしくないほど長い時間だ。
もう一秒も無駄にできない。一か八かで魔力を制御し始め100個のエレクトロンボールをウサの周りに浮かせ、襲い掛かっているゴブリンたちを視界に入れながら“最前線のゴブリンに当たれ!”と念じ、高速で放つ。
次々と放たれた電撃の塊がゴブリンに命中する。爆発音も何もない。ゴブリンたちの体に当たると同時に高ボルテージが体内に分散され、バタバタと100体ほどが一瞬に倒れ、その体からは煙が立ち上っている。
ほんの一瞬の出来事、そして前線のゴブリンの完全無力化。
両側がうろたえ、何が起こっているのか把握できない様子だったが同時に俺たちが猛スピードで迫ってくるのを見るや否や、ゴブリンたちは悲鳴を上げながらまっしぐらに森へと逃げる。
いや、俺もあいつらだったら逃げるわ。ウサの迫力感、マジで半端じゃないし。
一方で戦士たちは逃げ場もないのか、武器をこちらに構えながら舞い降りる俺たちを警戒しているようだ。
ウサが軽やかに着地すると彼らが俺に気付き驚きの色を隠せず叫びあっている。
まあ、誰かがドラゴンも背中に乗っているとはとても思わんだろうな。
ウサの背中から飛び降りると、背の高い人物が歩み寄ってくる。
ちょっと待て、よく見ると今近づいてくる人、女性だぞ。それも背が高く、抜群にスタイルの良い美人さん。肌は褐色色、真黒の瞳につやのある同じ色の長い髪をなびかせている。後ろにいるほかの戦士たちも全員そろって女性のようだ。
なぜか俺の心拍数が跳ね上がり、心臓が誰かにわしづかみされたようにちょっとした呼吸難になる。無意識のうちに顔がこわばってしまう。
え?ちょっとなにこれ?俺って女性苦手なの??
用心深く近づいてくると、俺の10歩手前で跪き、俺の背丈ぐらいはあるかと思えるほどの両刃剣を地面に置いた。
「私たちは貴殿と戦う意思は全くない、私達もある事情がありこのような境遇に立たされている」
「えっと、いや、俺もあなたたちの戦いが見えたので助けに来ただけだ」まあ、少しぎくしゃくしたが何とか答えられた。
そんな俺の心中も知らずにその女性が剣を背中にかかった鞘に納め立ち上がり、俺の前に立っている。
俺より背が高いぞ、おい。見上げないと顔が見えん。
「私の名はアリーシャ、サイシアン民のバトルリーダーだ。貴殿の援助、感謝する。私たちも限界に近かった」革鎧には無数の傷跡がついており、手足にも多数のけがを負っているようだ。
「あ、ああ。俺の名はベム。間に合ってよかった」
「ところで、あのドラゴン殿は貴殿の仲間なのか?」アリーシャが、ウサの方へと恐る恐る振り向く。
「えっと、そうだな。それより今はけが人の手当てを!」
少し前まで激しい戦闘がおこっていた場所には、ほかの戦士たちが倒れた者たちを一か所に横たわらせている。
「無理だ、倒れた者たちは、致命的な重傷を負っている。息絶えるのを待つしかない」悲しそうにそう告げるアリーシャ。
この世界には、ヒーラーとかいないのかよ!と思いながらも、同時に俺の中で何故か女性は、絶対に守らなければいけないという思いがこみ上げてくる。なぜって聞くなよ、俺にも全く理解できない。苦手なのに守りたいって、俺の中で女性ってどういった存在なんだよ!
10人の負傷者たちが集められている場に駆け寄り状態をチェックするなり、一刻を争う状態だと悟る。
魔力を練りコマンドを実行する。
失敗は許されない。
十分な魔力を使用するためにけが人の体全体に魔力をまとわせる。
彼女たちの周りの空気が蜃気楼のようにゆらゆらとゆがみ始めた。
「ヒールオール」
単に一言つぶやいただけだが、脳内では皮膚、神経回路、血管、体内全ての臓器、骨格構造、靱帯、筋肉、リンパ腺などの回復、更に体内の異物、細菌、毒物、ウィルスなどの排除、そして最後に五感の正常化を脳内に描きながら実行した。
出来るだけ細かくイメージしてあとは魔力量任せだ。リズの説明が正しいと願うしかない。
結果的には成功した、魔力量がことをなしたようだ。
瀕死状態だった10人が、急に眼を開き、ちょっとした混乱状態に陥っている。
「え?あれ?」
「私はたしかに胸をさされて...どうして?」
「い、痛くない!」
「エ…エリッサ!お前たち!」アリーシャが俺の後ろから飛び出し、一人の女性に抱き着く。
「姉さま、私まだ…」
「ああ、生きている、生きているぞ!」
よかったああああ!内心緊張しすぎて膝がくがくだったわ!
「私、ゴブリンにおなかを刺されて…」エリッサが、けがした腹部を手でさすってるが、鎧に残っている剣が貫いた穴のほかは傷跡も残っていないことに信じられないような表情をしてた。まあ、それもわかるわ。てか、なぜ魔力が使える世界にヒーラーがいないんだ?
とにかく命を落としそうな負傷者は完治したから良しとしよう。
「ああっと、ほかにけが人はいないか?良ければ全員を治療したいけど?」
全員で彼女たちの復活を喜んで抱き合っているときに水差すのは悪いが、全員多少のけがをしているからな。悪化する前に治療させてくれ。
アリーシャが猛スピードで俺に駆け寄り、何も言えないうちにガシっと抱き着かれる。
「よせ!離せ!おい!」革鎧が顔に当たって痛いだろ!
そろそろ息ができなそうになったと思ったときに、こんどは肩を両手でつかまれ、
衝撃的な言葉をアリーシャの口から聞かされた。
「貴殿は、もしや女神さまの賢者殿では!」
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