『横目で感じる結衣』

@henohenovel

第1話 彼女のキャンバス

朝の日差しが窓から差し込む頃、松原は目を覚ました。彼の隣には、結衣がまだ深い眠りについている姿があった。彼の視線は結衣の穏やかな寝顔に留まった。「もう7年か…」と彼は心の中でつぶやいた。同じ空間で、起きてから寝るまでの一日を共有することが日常となっていた。


朝食のテーブルで、結衣はコーヒーの匂いを嗅ぎながら、松原に向かって初めて言葉をかける。「松くん、私、美術教室に通いたいと思ってるんだ。」


松原は驚いて結衣の目を見つめた。「急にどうしたの?」


彼女の瞳には何かを探るような光が灯っていた。「何となく、自分の気持ちを形に残したいなって。」と、結衣は微笑んで答えた。


彼はしばらく考えるような顔をして目線を上に向け、小さく数回頷きながら言った。「いいと思うよ。」


それからというものの、結衣は週末のたびに新しい作品を家に持ち帰るようになった。最初のうちは、彼女の作品を一緒に鑑賞するのが新鮮で楽しかった。しかし、次第に松原はその作品から微細な変化を感じ始めた。彼女の描く絵には、これまで知らなかった「結衣」の部分が映し出されていた。その新しい一面に、彼は心の中で「彼女はこんな風に感じているのか」と驚き、同時に興味を抱いた。


ある日、結衣が新しい絵をリビングに置く音が聞こえてきた。松原は結衣の近くに座り、その絵を一緒に見つめた。


「この絵、すごく印象的に感じる。」松原はそっと言葉を口にした。


結衣は絵の隅をなぞりながら、微笑んで言った。「感じることって、言葉で表せないこともあるよね。」


結衣が持ち帰った風景画の中には、彼ら二人の影が描かれていた。しかし、その影は微妙に距離を取っており、手を伸ばせば届く距離でありながら、なんとなく遠く感じられるものだった。その晩、松原は不安に駆られるが、結衣に何も言えずに眠りについた。「考えすぎかな?結衣は、今、僕たちの関係をどう感じているのだろう?」という疑問と不安を胸に抱いていた。


















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