第48話 神の盤上

街から姿を消したローズは、毒薬、麻酔薬、幻覚剤、麻薬と次々と非合法な薬物を開発した。


当然まわりには悪い輩がうろつき、付き合いもその手のものたちが増える。

いつしか裏社会をまとめるような立場へとなっていった。


ドゥームローズ(破滅の薔薇)という闇ギルドのようなものまで構築され、無法の限りを尽くす。

善人、悪人にかかわらず、依頼があれば始末、暗殺、全てこなした。


とにかく人間が嫌いで、人を信じず。

悪魔が自分に取り憑いた感覚。


そんな時、頭の中にある声が響く。

[ヘイトLv.10になりました。虐殺Lv.10になりました。条件を満たした為、【魔族への権利】を獲得しました。【魔族】への変更が可能です。]


魔族?

上等だ。なってやる。


ブエルという名と薬学の完全なる知識、獅子を思わせる姿と強さ。

そしてヒトであった頃の見た目を残した聡明な女性らしさに怪しさと艶やかさ。

なによりも圧倒的に湧き上がる魔力に高揚感を感じた。

ヒトであった頃のつまらなさなどは感じない。


ドゥームローズの幹部であった者たちに魔力を与え、眷族として編成した。

凄まじい勢いで拡大する勢力。


そんなブエルをバルマスが放っておくわけはなかったのである。


………………


ヴァンフォート号の速度が少しづつ減速してきた。砂煙の舞う霞のかかった島、第二の目的地、吹き荒ぶ島だ。


ヒースさんですら立ち入らなかった島らしい。

理由はベヒーモスの住処があるからだと。

「ジン様、これだけは言えます。ベヒーモスを見かけたら逃げてください。必ずですよ。」


「わかりました。善処します。」


[ルシファー、ベヒーモスってそんなにヤバいのか?]


[そうですね。とにかく巨大で私達でも接触は避けていました。唯一リヴァイアサンだけは神獣の頃からの繋がりがあったと聞いています。]


[[天啓さん、ベヒーモスの詳細はわかりますか?]]


[ベヒーモス…獣の王と呼ばれ、正確な体長は不明。山のような巨体を持ち、攻撃、防御ともに最強と呼ばれています。風の砂漠を住処としていますが、その巨大さ故のことと思われます。]


ルシファーからも天啓さんからも恐ろしい情報しか返ってこないな。


とにかく注意しながら行くしかないか。


ボートを使い、上陸はスムーズに行うことができた。魔導車を展開し、砂漠へと突入する。

しかしヴァンツァール大陸の砂漠とは明らかに違うことに気づく。常に砂嵐のような風が吹き、更には魔物のサイズが桁違いに大きいのだ。

キラーアントは通常、人よりも一回り小さい魔物だったはずだが、この砂漠のモノはゆうに3メートルは超えている。サンドワームらしきものも龍を思わせる大きさだ。


そしてそのサンドワームを食糧としているであろう巨大なトカゲ。

恐竜サイズよりも大きいそのトカゲは天啓さん曰く、サンドサラマンダーと呼ばれる魔物の亜種らしい。


僕らが小さくなったかと錯覚を起こすほど、この島は異様なサイズ感なのだ。

砂漠という他の対象物がない環境もその効果を助長しているのかもしれない。


魔物を迎撃しながらも砂漠の中心にあるという目的の岩山へと進む。


そんな時、その目的とは違う方向の山が動いているのが確認できた。

嘘だと思いたいがあれは奴で間違いない。

ベヒーモスの登場だ。


「みんな、やばいやつのお出ましだ。このまま岩山に向かってくれ!僕は奴を引き寄せて向きを変えさせる!」


「一人で行く気なの?!危ないわ!」


「とりあえず飛びながら撹乱するつもりだ!エリー、このまま岩山に向かって!」


「わかった、無理はしないで!お願いよ!」



ハッチを開け、魔導車から飛び立つ。

そして山のようなベヒーモスへ砂嵐の中を進んだ。


[ルシファー、明らかにこちらに向かってるよな?]


[そうですね。少なからず主君に用がありそうです。神獣の頃はリヴァイアサンが雌の象徴、ベヒーモスが雄の象徴でしたからね。]


[そりゃあ、怒ってるだろうな。]



徐々に近づく、その異様なほどの巨大な身体に畏怖の念を抱かせる。

目の前にまさにサイと闘牛を合わせたような最強を認めざるを得ない獣が現れた。

そして砂嵐が止む。


ベヒーモスの周りだけ無風状態になっているようだ。


『お前が、、。使徒か。』


地響きのような声が響く。

語りかけられることを想定していなかった僕はその重低音が声であることを理解するのに数秒かかった。


「ああ、そうらしいな。」


『リヴァイアサンを殺したのもお前か。』


「そうだ。」


『そうか、奴は魔王などになった。その時点で既に誰かがそうしてくれることを願っていたのかもしれない。礼を言う。』


どういうことだ?

ベヒーモスは怒ってはいない?


そして、ベヒーモスはまたしても想定外のことを話す。


『使徒よ、お前の強さはわかった。しかしそのままではバルマスには負ける。まだ解るには早いかもしれんが、女神の盤上で踊らされてるうちは何も掴めん。』


なんだと?

女神?

盤上?


「どういうことだ?ベヒーモス!」


『そこからは自らの力で気づかなければならない。』


そういうとゆっくりと向きを変え、去り行くベヒーモス。


[やはりそうなんですね。]

ルシファーがつぶやいた。


[どういうことなんだ、ルシファー]


[私が話した過去の話は覚えていますか?]


[龍族との争いか?]


[そうです。あの時に停戦を思いついたのはベヒーモスの言っていたことに私が気づき始めたからなのです。あの争いも女神の仕組んだことなのではないかと。]

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