第47話 治療
甲板に出てユアンに魔導狙撃銃を展開させる。
見渡すとかなり遠くに魔鳥を確認できた。
「ユアン、アレはいけるか?」
スコープを覗き込み照準を合わせるユアン。
「任せろ。」
魔力を注入。魔導狙撃銃のパーツの継ぎ目が鈍く光り、銃口に魔法陣が3重に現れる。そして静かに引き鉄に力を込めた。
ある程度の反動と共に螺旋状の魔弾が一直線に魔鳥を貫く。
破壊力、直進性、貫通力、弾速。全て問題はなさそうだ。
「反動も軽い。ブレもない。」
ユアンも気に入ったようだ。
ついでにハンドガンも作ってみた。
狙撃銃と共に僕も彫っておこう。
………………
天界で、女神のため息が聞こえる。
『はぁー。、、、こっちもこっちだが、あっちもあっちだのぅ。』
ジンを気にかけて見ていたのだが、もう1人、気になっていた者がいた。
ジンではない転移者の女もいたのだ。
名をローズという。
ジンよりも先にこの世界へ入った彼女は天賦【魔導医師】であった。
ある村に身を寄せて名医として名を馳せていたのだが、ある事件を期に今や悪名を轟かすマッドサイエンティストへと成り果てていた。そしてジンが拒絶した【魔王への権利】は【魔族への権利】として今や彼女に流れていたのである。
ローズは、受け入れてしまったのだ。
ブエルという名と大きな魔力を手に入れて。
口元に微かな笑みを浮かべる女神。
『コレはなかなか面白くなってきたか。』
………………
今より5年ほど前、ローズはこの世に現れた。
天界の門を通り、祝福の契を授かって。
しかしこれといってやる気も起きず、天賦の力【魔導医師】で薬を作っては売り、放浪のような生き方をしていた。
それなりの数の街を周り、思ったことはつまらないの一言だった。
そんな中、ある場所で疫病のようなものが流行っている貧しい村に行き着いたのだ。
身なりも大して気にしてなかったが、村人は疑うこともせずローズを受け入れた。
すぐに診察、治療を行い、村は数日のうちに救われた。
先生と呼ばれ、家族のように接してくれる村人たちに次第に愛着心や愛情が芽生えた。
村人と共にローズの作る薬を売り歩き、話を聞いた者が他の街からも診療に訪れるようになった。
貧しかった村も次第に活気が出てきたのだった。
そんな中、その村も領地の一部であるその地域の領主の子供が病気になった。
噂を耳にしていた領主はすぐにローズを呼び寄せ、我が子の治療に当たらせた。
またしてもすぐに領主の子は完治し、領主も大変感激した。褒美をと言われたがローズはいつもの診療費用と同じ額を提示したのだった。
費用は全て持つから領主の街に越してこないかとの誘いもあったが、あの村に恩を感じていたローズはそれすら丁重にお断りしたのだった。
しばらくして今度は領主自身の体調のことで相談があるとの呼び出しに、ローズは再度領主宅へと足を運んだ。
内容としては年齢による衰えを少しでもよくしてほしいとのことだった。あまり気が進まなかったが、栄養剤や活力剤を処方した。夜道は危険だと護衛をつけてくれるとのことだったのでありがたく受け入れ、村への帰路へとつくのだった。
しかし、ローズは村について、膝から崩れ落ちた。
そこは村があったとも思えないほど破壊され、其処彼処に村人の惨殺された姿が目に映る。
地獄のような景色が広がっていたのだ。
一人一人を見て回ったが、全員が事切れていて、生存者はいなかった。
泣き崩れるローズを護衛の者たちは慰め、その場は危ないと領主の館まで引き返したのだった。
領主は酷く驚き、悲しみ、ローズを館に匿ってくれた。手厚く励ましてくれた領主に感謝して街に住むことも了承した。
それからしばらくして、領主の体調が悪くなり、また診察に訪れた。天賦の力も使い診察した結果、ローズの判断は悪性の末期ガンだった。その日は病状を伏せ、領主の寝室を後にするローズ。すると廊下の先にある部屋のドアの隙間から側近の者たちの話し声が漏れていた。
「あー、あの村の祟りだよ。あんな酷いことするから。」
「おい、その話は禁句だろ?」
「お前はいいよ、護衛役だったんだから。」
聞くつもりは無かった。しかし聞こえてしまったのだ。咄嗟にバッグからメスと注射器を取り出してドアを開け、そのうちのひとりに毒薬を打つ。もう一人の頸動脈にメスを当て、問いただす。猛毒を首に打たれた男はその場に倒れた。
「詳しく話せ。動くなよ。」
ローズの静かな怒りの声に慄く男。
「わ、わかった、、許してくれ、、」
メスを当てたまま毒殺した男の首の注射痕を魔法で治し、痕跡を消す。
もうひとりには背中に毒の注射器を当てたまま、館の外まで連れ出した。路地裏まで連れてきた男の体に麻酔薬を打つ。
そのまま男から全てを聞き出したローズ。
私をこの街に呼ぶため?
こんなに酷いことが人間にできるのか?
なんの罪もない人たちを?
自分のせいなのか?
しかし許すわけにはいかない。
その日から復讐という名の虐殺が始まった。
翌日、館を訪れ領主の診察をしていると、昨夜ひとりの側近が亡くなったと話し始めた。
ローズが殺した男だ。
死体を見せてくれとお願いし、領主に報告する。
「これは非常に危険な伝染病です。側近の方々全員にクスリを注射しなくてはなりません。」
20人はいただろうか?一部屋に集まってもらい、側近全員に「クスリ」という名の遅効性の毒をたっぷりと注ぎ込んだ。
そのまま領主の寝室に行き、冷たい眼差しで話しかける。
「おクスリは配り終えました。これから領主様の治療を始めます。よろしいですか?」
弱り切った領主はうなづく。
「それでは、悪い所を治しますね。」
一呼吸おき、怒りを込めた声で伝える。
『覚悟しろよ、この外道が!』
斧を胸に振り下ろし開胸する。
麻酔などしてやるものか。
ゴリゴリと胸骨を割り開いてゆく。
声にならない叫び声をあげる領主。
『ココロが腐ってますね。摘出します。』
ブチッ、ブチッ!
斧を投げ捨て領主の心臓を素手で引きずり出した。
血の海となったベッドを一瞥し、その場を後にするローズ。
その後のローズは街を離れ、消息不明となった。
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