番外編 少女のその後

第56話 食べ物には目がない

「お姉様は、どうして魔法使いたちを解放しようと思われたのですか?」

「好きだったからじゃよ」

「答えになっていません」

慣れたように答える女性に対して、桃色の髪の少女が、むすーっと頬を膨らませる。

その愛らしい声に、桃色と灰色の両目を持つ女性は、小さく微笑んだ。

「シュナル。おぬし、今年でいくつじゃったか?」

「またお姉様は・・・14だと何度も言っていますよ!」

「そうか。もう14か。大きくなったな」

灰色の目の女性は、年齢に見合わない素振りの少女の頭を撫でた。

すでに14歳だが、まだまだ幼さの残る子だ。


「その分、お姉様ももう27歳ですね」

「女性に正確な年齢を言うもんじゃない」

「知っていますか?お姉様くらいの歳のことを、アラサーと呼ぶそうです」

少女が楽しそうにからかう。

その様子は、まるで歳の離れた姉妹のようだ。


「そろそろ学校も卒業じゃな」

「はい。けれど、進路に悩んでいて・・・。青春も出来てないし・・・!」

「それは勿体ないな」

「お姉様は私ほどの年齢の時、どのように過ごされていましたか?」

「ワシは14の時、まだ人殺し全盛期じゃが。そうじゃな。16の頃はそれなりに楽しい生活を送っておったぞ?」

「え!意外です!」

「ほう・・・?」

地雷を踏んだと悟った少女は、ギクリと後ずさる。

その光景がまるでかのように女性は微笑んだ。


「ワシは青春たるものを謳歌していたからな!」

「聞きたいです!!」

「おぬし・・・4000歳になってようやく青春したババアの話が聞きたいのか?」

「お姉様はお姉様ですっ!!」

女性は眉をひそめるが、少女はすでに目を輝かせている。

「はぁ。ならば、特別じゃぞ?」

「っはい!!」

「奴らには言うなよ?ほれ、あの男二人組」

女性が口元に人差し指を立てるのに、少女は元気よく頷いた。



「では、そうじゃな。青春っぽい話・・・」

長話を予感したのか、少女が温かい紅茶を入れ直す。

「おお。あれなど良さそうじゃ」





今から13年前。

女性が少女だった頃の話である。


「リーセル。ちゃんとご飯食べてる?」

「ん?」

端正な顔立ちの少年からの問いかけに振り向いた少女は、手に持った皿に、大量のチョコレート菓子を乗せていた。

「よくもまぁそんなに飽きずに食べられるね」

もう一人の和風の身なりの少年が呆れたように頭を抱える。

少女はそれらを知らんふりしてケーキにフォークを刺している。

「おぬしらさては知らんな?」

フォークにケーキを指したまま、ニヤリと少女が笑う。

「何をさ」

知ったかぶりをされてのが心外だったのか、和風の少年がジロリと少女を見やる。

「ビュッフェとは、好きなものを好きなだけ食べることなのだ!!」

「知ってんだよそんなことぉぉぉ」

自信満々に述べる少女に、少年は半眼で唸った。


「けど、王宮で国民を招いて宴会って。王様も思いきったことをするよね」

イケメン少年が会場を見回しながら呟くと、和風少年がすぐさま反論した。

「悪事を金の力で誤魔化そうとするなんて。そんなもので信仰を取り戻せると思っているなら大間違いさ」

国民を王宮の大広間に招いての宴会。

全て国が主催で行われており、国民は自由参加とされたが、多くの国民が集まっている。

「そう?案外、こういうのが一番効いたりするんじゃない?」

イケメン少年はそう言うと、軽く笑いながら右を見やった。

「おお!これはあの若者の間で流行っているというアイスクリーム!!いつかに食べようとして無理だったものではないか!?」

「うっ」

和風少年は頭を抱え、イケメン少年は笑いが止まらない様子。

「こんなものまで揃えておるとは、見直したぞジジイ!!」

「馬鹿すぎる。この子、王宮に反して魔法使い解放したんじゃなかったかい?」

「それだけ、食べ物の力は偉大ってことじゃない?効く人には効くんだよ」

実例が目の前にいるため、ぐうの音も出ない。


「おい二人とも!人に食べているか聞いた割には、おぬしらの方が違うのではないか?」

呆れかえる少年二人に、少女ははつらつとした声を向けた。

「そうだね。ボクも今日は徹底的に

「呑むって言いたいんだろう酒カス。そうはさせないからな?」

威勢良く声をあげたイケメン少年の首根っこを、すぐさま和風少年がつかむ。

「そうじゃイリス。向こうに茶漬けがあったぞ?」

「ほう?それは聞き捨てならない・・・」

自分の好物の話題には目がない模様。

和風少年から解放されたイケメン少年は、こそこそとアルコールを手にして戻ってくる。

その光景に、少女は笑い声をあげた。





「お姉様、アイスがお好きだったんですか?」

「いやぁ。実を言うと、以前から目をつけていたのだが食べられていなかった物でな?国の宴会如きにそんな流行りのアイスがあったとは。あの宴会の料理を選んだ者は天才じゃな」

「私も、あの時の豚饅ぶたまんの味が未だに忘れられませんね・・・あれは美味しかったです」

「なんじゃ、変わった好みじゃのう」

「マヨネーズ大好きのお姉様に言われたくはありませんよ」

食い気味に突っ込む少女に、女性は楽しそうな笑い声をあげた。

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