第51話 憧れと約束への執念

ハートハウスは温かな家だった。

一人目の少女はそう感じていた。

同じ家で暮らすみんな、母さん。

みんなが大好きで大好きで仕方なかった。


4000年前、エルナードには一人の英雄がいた。

見た目や名前の記憶はない。

ただ、ひたすらに彼女に憧れた。

「ワシ」という妙な一人称も、誰に対しても優しかったあの眼差しも。

それを真似したも沢山あった。


自分も彼女のような英雄になるという夢を決めたのは遙か昔の、この時だった。


 

少女は、歴史上初めて、光属性魔法を持った魔法使いだった。

その力は少女の夢を叶えるには十分すぎる力をもたらし、齢四歳にして、国の英雄への階段を登り切らせた。


母から、魔法使いたちを助けてくれ、と頼まれたとき、自分の存在意義はこれだと悟った。

その時に、魔法使いとは何かを母から教えられた。


 ・研究の果てに生まれた造形物であり、人間ではない

 ・人間の死んだ魂を人形に宿らせることで魔法使いを作っている

 ・自分は最高傑作の殺戮兵器である

 と。


それからは、何も考えずに、ただひたすら、人を殺し続けた。

自身の手がどれほど汚れようと、冷酷な眼差しを向け続けた。


そして顔を上げたとき、周りには誰も居なくなっていた。

同じハウスで育ったみんなは戦場で息絶え、母は私から離れていった。


まだ足りなかった。

幼心にはそれが深い傷として刻まれた。

しかし、小さな一人の少女には、あまりに重い話だったようだ。


 12歳。少女は戦場で自身の首をはねた。


 少女はそこで、一度目の死を迎えた。



目が覚めたとき、少女は病室のベッドの上にいた。

点滴という名の強力麻酔を注入され、記憶を消す魔法を掛けられたがガードし、相手には気づかれないまま、生前の記憶を持ち続けた。


奴らの手駒のふりを続けたまま、また人を殺し続けた。

そして23歳。今度は寿命を迎え、少女は二度目の死を迎えた。




次に気がついた時、少女は冷たい氷の中にいた。

周りには同じく堅氷けんぴょうに閉ざされた何かが沢山いた。

氷の中でユラユラとそれはうごめいていた。

母のごんを思い出し、それらは魂なんだと悟り、背筋も凍った。

私はその氷から、赤ん坊の形をした人形に移植された。




二人目の少女は、一人目の意志と記憶、そして能力を持ったまま、二度目の人生を歩み始めた。

二人目の少女を作ったのは奴らだった。

しかし、記憶の継承は、奴らが望んだことではなかったらしい。

けれど、二度目の人生を歩めるのなら、次こそは約束を果たさなければ。そう思った。


しかし、だいたい200万人殺害に差し掛かった辺りで、罪悪感に負け、少女は二度目の自殺をした。


そしてまたも生き返り、19歳で寿命を迎え、亡くなった。





手を汚し続けた。

みんなが称賛した。

金と名声は増え続けたが、知り合いと人の心は消え続けた。


殺して自殺して生き返って殺して死んで、また生き返って殺した。


それを繰り返し続けた。

でも約束は果たせるどころか、後退している気すらした。

自分でも、自身から人の心が消えていくのを感じた。

不安になった。

しかし母がそう言ったのだ。

母の願いを果たすのが娘だとどこかで聞いた。




しかし、そんな私に初めて、哀れみの目を向けてくる魔法使いに出会った。

最早何度目の人生かは分からない。

彼もまた、国の英雄的地位を持っていながら、少女の無情の表情を見て、泣きそうな顔を見せた。

こっちは必死なのに哀れんできたのにムカついたのはここだけの話、なぜそんな顔を見せてきたのか、私には分からない。

けれど、悪い気はしない。

それどころか、自身に彼の存在が大きく影響した気すらする。


このn回目のハートハウスの家族の二人も。

私が楽しいという感情を感じられたのは全ての人生であっただろうか。

彼らと過ごす時間は悪くなかった。

彼らが大切な存在なのは間違いないだろう。




けれどそれも邪念だと言い聞かせた。

私が一人目の母と交わした約束を果たすためにはいらない。

何度間違っても、死んでも、私は大好きな魔法使いたちを救わないといけない。


何度生き返りの移植を受けても、私は奴らの考えに賛同なんざ出来ない。

奴らは魔法使いを量産して欲望を満たし、他国を壊し続けた。

そんな他国は連合軍を形成し、エルナードというクソ国を止めるべく、数千年を戦い続けた。


それを知ったのがもっと早ければ、少女の思考と手も、止まっていたのかもしれない。

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