第50話 舞って

「リン」

「・・・なに?」

「これで、最後にしような」


少女を取り囲むは、連合軍の全勢力3億。


次の瞬間、視界が塞がれた。

世界が黒に包まれた。


少女が操るのは光。


物体が見える理由は、光源の光が見ようとした物体に反射し、その反射光が眼に届くことで初めて見えている、という状況になる。

少女により、光の反射が消されたのだ。


その状態で敵軍を錯乱させたまま、少女の周りに大きな光の矢が並べられ、爆発した。


一瞬にして消し飛んだ3千万の魂は、この星から消えた。



少女は血の雨を浴びながら、踊った。

その少女だけ見ていたなら、儚げな少女が夜空の中、いるだけだった。



少女はなぜ自殺を試みるほどに自身の行いを悔いているのに、人を殺し続けるのか、俺には分からなかった。


笑顔で天に手を差し伸べる少女が、何を思っているのか、とても想像できなかった。


しかし、少女はいたのもしれない。

自分を理解してくれる人を。

後輩に好かれていたのも、少女自身がそうなるように動いている、とウェイリルが言ったことがある。


行動が俺にすら読めない少女が、一つだけ、ずっとやらなかったことがある。

使を卑下することだ。


 私は魔法使いたちを愛していた。

実験の成果として生まれた、人を殺し生成者の欲を満たすだけの魔法使いを。

汚れまくった世界に存在する魔法使いという存在を。

魔法使いたちの行いを、肯定するために、私がそれを人間に肯定させるために自身が多くの人間を殺すことでやってみせた。


殺さないと。手を汚すのが私だけでよくなるまで。


  殺さないと。でも罪を償わないと。

  じゃあ死のう。でも、私が死んじゃ、これは罪を背負い続ける。生きないと。 

  みんなをんなを肯定しないと。

  あ、じゃあ殺さないと。

  でも、死なないと。

  あ、でも、みんなが。

  じゃあやっぱり殺そう。



少女は声をあげて笑いながら、舞い続けた。


いつかの、そうだ、初めの母さんだ。

その人に言われた。

「お前は、全てを消し去るんだ。それでみんなを救える。人を殺すことに疑問を持つな。善人の心を宿すな。魔法使いたちを、助けてくれ・・・」

だったかなぁ。


けれど、私はその重すぎる約束に折れ、12歳であっさり自殺した。




王宮最上階、禁忌の書庫にはとある本がある。

それは、魔法使いという、研究の果てに生まれた人形の取扱説明書、全3巻。

その最終巻。

題は、「魔法使いの生き返り」


そこには、次のように書かれている。


  魔法使いに、本来、生き返り、という概念は存在しない。

  しかし、生前にある条件を満たしていた個体は、体に魂が宿り返す。

  その条件とは、

  もう一度体を動かすだけの“大量の霊気”、そして“あまりに強い意志”、自身

  に“生”の感情を持つこと、この三つが条件だと言われている。


   実例は限りなく少ないが、




この本が著されたのは、今から約3000年前。

魔法の概念が生まれたのは、4000年前だと言われている。

この時点で、魔法使いの生き返りは存在していた。



いつしか、ちびっこ三人衆が16歳だと話されたときに、イリスの「兵魔法使いに               しては、十分いい年だ」という言葉を覚えているだろうか。

本来、魔法使いに明確な寿命は存在せず、最長の場合、人間と同等まで生きることが可能である。

しかし、その年まで生きれるのは、魔法を使ってこなかった者のみである。

砲撃ならたやすく耐えられるほどに固く作られている魔法使いの体は、年月と共に脆くなっていく。

故に、魔法を多用し、最前線に出る兵魔法使いの最高寿命は、25





“少女”リーセル・フルーゲルは、約4000年前に誕生した。

後に彼女は、最初にして最後の最高傑作と語られることとなる。

しかし、僅か12歳で自ら命を絶つも、

あまりに強い母との約束、霊気量、自身への生の実感により、蘇生。

国は少女に同じ事をさせないために、少女から自殺した記憶を消去。

次に、寿命を迎えた少女を、国は新しい体を用意することで命を繋げた。

また自殺。そして記憶の消去。新たな体の用意。

自殺。生き返り。

それを繰り返し続けることで、4000年の時を生き続けた“少女”それが、エルナードの英雄、国の最高傑作、最強兵器、のリーセル・フルーゲルである。

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