第48話 「生きて」
――――翌日
「朝早すぎんか・・・」
「8時で早いってどんな神経してるんだい?君は赤ん坊か?」
「まぁ、いつもよりちょっと早いよね-」
「それだけ、焦っているということだろうね」
「まぁね」
気を使って、少年コンビが少女を迎えに来てくれた。
寮は少女の家からそこそこ遠いというのに。助かりますほんとに。
「おや、今日は黒のヒラヒラした服じゃないのかい?」
「ん?別に、特にこれにした理由はないが」
堂々と少女の着替え中に部屋に入るあたり、寮での風呂事件の時も思ったが、この二人、この手の事に関しての道徳が欠如してやがる。
「あ、リーセル可愛い」
酒豪少年まで入ってきた。彼は少女の好みのファッションが分かるらしく、さらっと褒めてくれる。手になにかを持ちながら。
「ふふんっ」
と鏡とあざと少年の前で自慢げに腰に手を当てる少女だったが――――
「きゃっ」
一瞬、可愛らしい悲鳴聞けたな、と思ったのもつかの間、少女は瞳孔ガン開きにして酒豪少年を睨んだ。
「あははは!ウェイリル!最高だよ!」
少女を見つめていたあざと野郎は、腹を抱えて爆笑、戦犯の酒豪少年はニヤニヤが止まらないらしい。
酒豪野郎が持ってきたのは、桶に入った冷水だった。
少女がまだ半分寝てると分かって、眠気覚ましを兼ねてイタズラしに来たらしい。
冷たい、寒い関係が苦手すぎる少女は、桶の冷水をぶっかけられて、朝から元気いっぱいのようだ。うんうん。元気そうでなにより。(悪ノリ)
酒豪野郎はイタズラ好きなのだ。
少女が、二人に風魔法で服を乾かさせたところで、僕は改めて少女の服装に目を戻した。
少女の今日の服は、珍しい赤色だった。
おなじみマントはいつものことだが、今日はやけにふんわりとした形のワンピースだ。
「リーセル」
不意に、あざと少年が口を開いた。
そのいつもとはどこか違う声色の呼びかけに、少女はあざと少年を振り返った。
「一昨日、かな、君は何をしていた?」
「一昨日?なんじゃ、おぬしもそんなことをきくのか」
おや、と思ったが、少女とは一番深い関係にある二人なら、知らされているのかもしれない。
「それに関してじゃが、ワシはイマイチ記憶がない。歳をとると面倒なことしかないな」
「ボクたちまだ16だけどねー」
「兵魔法使いにしては、十分いい年だ」
「まーねー」
何か余計なこと言うつもりなのかと警戒したが、二人はいつも通りのほげーっとした返しをしただけだった。
「お腹空いたな・・・」
「朝にちゃんと食べないからそうなるんじゃないか」
「そのほっそい体で言われてもねぇ」
「ウェイリルも変わらないだろ。それに、僕は食事に関しての関心が薄いだけだ」
「甘い物が嫌いとは、実に変わっておる」
ちびっこ三人衆は、空を飛びながらエルナード城へと足を進めた。
少女は、小食な分、どうやら空腹になるのも早いらしい。
大変な体質だな。(適当)
王宮の門前上空に着いたところで、着地をすると、えらく慌ただしい役人たちが目に入った。
「何だい?朝っぱらから随分騒がしいね」
「どうせお偉いジジイが墓に入ったとかそんなんじゃないのか?」
「なんで君は死亡フラグばかり思いつくのかね」
役人のことはほっといて王宮に入ったちびっ子三人衆は、王宮玄関の受付に呼び止められた。
「あぁ虹翼様!こちらにいらっしゃいましたか!探していたんです!」
「何用?」
(厄介事に違いないぞ。トンズラしたい)と僕に話しかけてきた。
受付の話からすると、慌ただしくしていた役人たちは、少女関連で動いていたみたいだ。
「こちらではお話しすることはできません。私は受付の者です。ご同行願います」
「けっ」
この子、家以外では丁寧口調になるっていう性質、いつの間に消えたんだ?
「分かった分かった」
「「・・・」」
珍しく少年コンビが沈黙に包まれていた。
慎重な顔つきで、少女と受付を見つめている。
少女が受付にトンズラの駄々を捏ねていると、あざと少年が少女に伝えた。
「リーセル」
「あ?」
「生きて」
「あ?あぁ・・・?」
少女も、意図が分からない様子で答えた。
「さ、早く行っておいでー遅刻厳禁は社会の常識だよ-」
緊迫した空気を酒豪少年が断ち切ると、二人は会議の部屋へ行ってしまった。
「地下に5階以下が存在したとはな。初耳じゃった」
ほーっと感心した様子で、少女は受付に導かれて階段を降り続けた。
「ええ、一般的には立ち入り禁止となっていますので」
「そうか」
階段が面倒くさくなったのか、浮きながらペースだけを受付に合わせて降り続けていると、唐突に少女が口を開いた。
「のぉ、時に受付」
「なんでしょうか?」
「おぬし、なぜ受付と名乗った」
「と言いますと?」
仰向けで浮いていたのを地面に足をつけると、少女は下からのぞき見るように、生気の無い表情を見せた。
その恐ろしい表情に、男がひっ、と小さく声をあげたのを余所に、少女は続けた。
「知らなかったのか?王宮の受付は、何があろうとあの場を動いてはいけないという決まりがあるはずじゃ。というより、それしかできないと言った方が正しいかの」
受付と名乗った男は、驚きの表情で息を呑んだ。
「加えて、おぬしは受付があの場を動けない理由を今悟ったはずじゃ」
目を伏せて口を開こうとしない。図星か。
「まぁかまわん。どうせ墓入りジジイの差し金じゃろう。面白い。付き合ってやろうではないか」
そう言うと、少女は受付と名乗った男を抱えて、光速で階段を降りた。
螺旋状になっている階段を、神業かと思うほど正確に降りきると、少女は顔をあげ、にやっとした笑みを浮かべた。
「ここに来るのは久々じゃな。5歳ぶりかの」
そこには、少女の身長の数倍の大きさの鉄製ドア。
ドアの開いた先には、少女が墓入りジジイと呼んだ男・エルナード魔法研究の長であり、少女をこの地へ送りやった張本人、死ぬギリギリのおじいさんが立っていた。
「早い再会だったな。予定が変わった」
「そう。で、今回は何をしたいのかな?墓入りジジイ?」
少女の煽りにも慣れたといわんばかりの落ち着いた雰囲気で、じいさんは少女に眼光を向けた。
「君にいよいよ死んでもらう日が来たみたいだ」
その発言に、受付男と僕が息を呑むのに反して、少女はこれまでで一番の、好奇心に満ちあふれた表情で嘲笑った。
「へぇ?殺せるのかな~?手駒だった最高傑作がクソガキになったのにぃ?」
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