第47話 年の功

「リーセル、昨日、君は何してた?」

「昨日か?昨日、昨日・・・なんじゃ、イマイチ記憶にないな」

「そう、ならいいよ」

ん?と少女は首をかしげてきたが、これでいい。



「なんのためにお前をつけたと思ってるんだ!!」

「さーせん・・」

「あいつに死なれたらこの国は終わりだ!それぐらい分かっているだろう!なぜ勝手に出歩いた!報告もわざわざこちらが出向いて毎回済ませているというのに!!」

「あの子のことで、少し話したいことがあって。それでこっちに・・・」

「理由などなんでもいい!二度とこんな過ちを犯すなよ!?」

「っす」

「まったく、口が軽い・・・。分かっているのか分かっていないのか」

端から見れば、大の大人たちが暗闇で青年を罵倒している図にしか見えなかっただろう。

そもそも俺は誰だって話だ。

昨日の晩は散々な目に遭った。

何も少女のせいとは言わないが、奴らの言うとおり、目を離したらこれってことだろう。




「学校は?」

「いらん、あっちはとうの昔に夏休みらしい」


少女は、マヨサンドウィッチ片手に、珍しくコーヒーを飲んでいた。

今日は学校に行かせようと思っていたけど、どっちにしろ昨日の今日では無理があるか。


「え、もうそんな時期か」

「まぁ、夏休みという口実で、休学期間を延ばしているだけじゃろうがな」

けっ、と言いながらサンドウィッチを口に放り込み、手についたマヨネーズを舐めると、少女はソファから立ち上がった。


「明日の予定は?」

「会議だね。もうそろそろ停戦の期間が切れる。伸ばすにしろ、現状把握は必要みたいだしね」

「ワシは社畜か?なぜこう毎度毎度会議に・・・」


口をハの字に曲げてしょげている。

まぁ言ってしまえば、少女はすでに国の社畜だろう。


「では、今日はどうするかなー」

「近々また戦争が起きることは間違いない。対策は立てれるときに立てるべきだと思うよ」

「同意見じゃ。久しぶりに研究室に赴くとするかな」




「君、最早コスプレ感覚でしょ」

「雰囲気じゃよ雰囲気」

今日の少女のファッションは、シンプルな上下に、白衣を羽織り、眼鏡ををかけている。

似合わん。これはファッションに疎い僕でも分かる。似合わん。


「ピンク髪に白衣と眼鏡はないでしょ」

「多様性じゃよ」

なんちゅう理由。

どう見てもハロウィンに仮装したガキの姿にしか見えない。

というか、この子白衣なんて持ってたのか。



「例の霧の解析は」

「同じものならすぐに対策できるはずだよ」

「含んでいるな?」

「二度は通じないと、むこうも分かってるだろうしね」

僕と少女は、“魔法封じ霧”の解析用にとりあえず作ってみた、“その霧封じ霧”を前に、話し合っていた。


少女の頬に傷をつけたあのデカ若者は、馬鹿に見えて聡明だった。

少女が、次はあの霧を克服してくることぐらい、予想はついているだろう。


「対応できるか?」

「まぁ、そこまで大きく仕組みを変えることはむこうもできないだろうし、できなくはないだろうけど」

「運頼みというのも、いささか不安じゃな」

珍しく少女が頭脳明晰だ。

頭打ったおかげで冷静少女になったのかもしれない・・・!


「うーんけど、正直賭けるしかなくない?どっちにしろ、解除霧も効くのはリーセルにだけだし」

「ふーーむ・・・」

「うーーん・・・」

手詰まった。

僕も少女も頭を抱える。

やっぱり戦場での神頼みしか――


と思っていたとき、少女が机を叩いた。

ビクっと肩を振るわせた僕をよそに、少女は、勝った、と言わんばかりの表情を見せた。

「一応聞こう。なに?」

「ふふーん。ワシってば、頭がいいのぉ。さすが、年の功ってやつじゃな」

「もう一回尋ねる気はないよ?」

にやっとしたウザい笑みを浮かべられた。

何か策が見つかったのか。それとも。

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