第38話 無情Ⅱ

「随分派手にやってくれたじゃんか。虹翼さんさぁ」

指揮官その二が出てきた。若いな。

「言葉遣いが失礼じゃ。言い直せ」

少女は顔にべったりとついた血を払いながら答えた。

「なにその、じゃ、って。厨二病?」

「そんなことはここではどうでもいい」

「ていうか、あの敵の数を一撃ってなんなんだよ。やっぱワケアリ?」

非難しながらも、それに対して恐怖心はないように聞こえる。

500万という戦力にはさすがに自信があるのか?


「饒舌は嫌いじゃ。戦場でなんぞもってのほか。舌噛むぞ」

言い終わるが早いか、大鎌を右手で横に振りかざした。

光をまとっているその攻撃は、斬撃となり、正面にいた敵を吹き飛ばす。


「随分余裕そうだな。自分に落ち度はないって確信してんの?」

「そうじゃな」

迷うそぶりもなく答えた。

「へーやっぱそうなんだ。なぁ、最強ってどんな気持ち?人間なんてゴミに見える?普段からそんなに血浴びてんだよな?罪悪感とかねぇの?」


少女が驚きと悲しみの混じった反応をしたその時、肩に手が置かれた。

「ないわけないだろ。その発言、今すぐ取り消せ」

「なんじゃ、硝子メンタル。生きとったのか」

表情をいたって変えず、少女は、ノッポを見上げた。

その真っ赤に染まった顔と、無情の表情に、ノッポは唇をかみしめた。

「悪いなクソガキ。霊気切れ起こしてた」

肩に置いた手を、頭に持っていくと、ノッポは正面の敵に視線を向けた。

「なんだ、彼氏か?なぁ、お前の彼女、人を殺すことになんも感じねぇんだぜ?」

「そうじゃない・・・」

「あ?小せぇ声だなぁ。そんなんだから、気づけねぇんじゃねぇか!?」


少女に、驚きの表情が浮かんだ時には、もう遅かった。

ノッポの背中に矢が突き刺さっていた。

ガっと後ろを振り返る。

背中にタンクを背負った大軍がいた。

弓矢を放ったのはその一員。

「なぜじゃ、ワシが気づけないはずが・・・

「だからあんたに落ち度はあるのか聞いたんじゃねぇかよぉ」

「チッッ」

全てを悟った少女は、思いっきり舌打ちをした。


「そういうことよ。俺は時間稼ぎをするために駄弁ってただけ。お前という驚異には、何が一番聞くと思う?攻撃が通らねぇなら精神攻撃に振り切るよなぁ!」

男の発言を聞いていたのかいまいか、矢を放った兵隊の首を一瞬で切り落とすと、少女は男を見て言った。

「なら、その作戦は失敗じゃったな」

「あ?そんだけキレといてなに言ってんだよ。強がんのもよせよ!」

「ワシが今まで何人の同胞を亡くしてきたと思っとる?こいつとも、少し踏み込んだ仲になっただけじゃ」

「!!はっ。狂ってやがる・・」


「話が終わったなら殺すが?」

「おい、もうやれ。向こうの雑魚も集まってきてる」

少女の背後には、すでに多くの魔法使いが待機していた。

戦力は十分といえるだろう。

けど、やる、とは?攻撃開始か。


「「「了解」」」

背中にタンクを背負った組が男の命令に答えた。

それを合図に、噴射口から、白い煙を撒きだした。少女の後ろをめがけて。


「!?」

少女は危険を察知し、大きく空中に飛び上がった。

「毒か?」

「いや、これ・・・やばいよリーセル」


「吸ってはない。大丈夫だな」

「それだったらよかったけどね・・・」

「あっっ」

空中にいた少女は、空中でグラッと揺れ、地面に叩きつけられた。

「!?なぜ、霊気切れか?んなわけは」

「魔力とやらを封じさせてもらったんだよ。その霧は、うちが開発した、魔法、魔力を無効化させるガスだ。だが、吸うだけじゃぁ対策はいくらでも取られる。こいつの凄いとこは、触れるだけで効果が発動するところだよ!!」


「ッッ!!」

驚きと怒りに満ちた少女は、手のひらに光魔法を展開を試みる。

確かに、魔法が出ない。

「だが・・・」

大鎌は残っている。これも魔法だ。それに、少女が常時発動している「光壁」も。


「てぇことは?」

半分キレて、煽るような首の角度で、少女は背後に目を向けた。

魔法使いは、魔法の訓練しか受けていない。当たり前だ。

つまり、魔法がなくなったら、そこらの赤子同然。


背後の魔法使いたちは、血を流して全滅していた。

「右翼が全滅したのはそういうことじゃな」

「そーゆーことだ!これならお前も、ただのガキなだけ。これを殺すだけたぁ、随分楽な作業よ」




男の発言は間違っていない。少女も、魔法をなくせば、ただのクソガキだ。

だが、それが弱いクソガキとは、だれも言ってない。

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