第37話 無情

「全軍!目標、虹翼のリーセル!どれだけの兵力をつぎ込んでもいい!必ず打ち取れ!!」

拡声器以上の技術を有した機械は、6㎞先の味方にまで、突撃を命じた。

左右に長く広がった敵陣は、中心の少女をめがけて一斉に進軍してきた。


しかし少女は、引き抜いた大鎌を左手に握ったまま、動かなかい。


「ほう、そうきますか」


少女が、立てた策。それは、動かないこと。先手必勝を捨てること。

相手が、少女の名前と二つ名を知っていたのを証拠に、やつらは、今までの戦歴で、少女の攻撃パターンを知っている可能性が高い。


 

 家のソファで、二人で策を練った。

 「まあ、今までと同じ戦闘手順なら、小さいとはいえ、策を立ててくる可能性が   

 あるな」

 「なら、

 「ああ、動かなければいいだけじゃ。その方がこっちとしても都合がよい」


半径12㎞を一網打尽にするのは少しめんどくさい。

なら、


「寄ってくるのを待つだけじゃ!」


「大光矢、複製8万個!!」


敵は少女ただ一人。

前線力をつぎ込むなら、両翼も、少女という中心をめがけて進軍してくる。

そうやって縮まった距離を、単体最強技だった「大光矢」の複製バージョンで迎え撃つ。


少女の両翼に、4万個ずつの大光矢が並べられた。

一つにつき、効果範囲は120m、威力は健康診断の時のものから、大幅に上がっている。

敵陣に突き刺さった大光矢は、大きな爆発とともに、大量の血しぶきをあげた。


サーーっと少女に血の雨が降った。

帽子と顔を赤く染めながら、少女は左目で前を向いた。


「うっ・・・。なんだ・・・、この・・」

さっき拡声器でしゃべっていた指揮官の姿を確認できた。

少女は生気のない目つきで指揮官のもとへ歩いていく。


「ま、待て!私には家族がいる!私が死んでは、労働力になるだけなんだ!だから、

「家族とは、なんじゃ」

そうつぶやくと、少女は指揮官の首をはねた。


恐怖の中に、わずかな哀れみを浮かべた表情の首が地面に転がった。


全死だった。

右も左も、血の海とはこのことだろう。

「硝子メンタル、次じゃ」

霊気通信を介してノッポに告げる。

聞こえているはずだが、向こうからは沈黙しか返ってこない。

「なんじゃ、もう死んだのか」

こちらも、哀れみの表情を浮かべた。

まるで、赤の他人が寿命で死んだかのような、死のうが生きていようが大差ない、とでも言いたげな。


「虹翼、自陣も右翼がほぼ全滅だ」

「はぁ」

こっちの指揮官からも、悲報が飛んできた。

「しかし、ワシは向かえん」

「なに?」

「続きがあるようじゃ」

少女が目を向けた正面には、120万の兵に隠れながら待機していた、大軍がまだいた。

「うーむ、500万、いやさすがに盛りすぎか。援軍を頼みたいな。効果範囲外じゃ」

「・・・分かった」


虹翼との会話を切った指揮官は、大きくため息をついた。

一瞬で、120万か・・・

やらせているのはこっちとはいえ、ためらいが生まれてしまう。

少女に、あといくら殺させれば、この戦争は終わるのだろうか。

「被害の数は」

「右翼全滅で100万の被害です」

「マスターランクは」

「水蛇3人、火鳥6人、風龍1人、草虎1人です」

「なぜこうなっている?」

十分な戦力を向けたはずだ。

いくらなんでも被害が多い。


「被害が想像以上で焦っておられるかね」

「!?お前は、スフォンドの総司令官!」

どこかの霊気通信に侵入されたのか。

そんなことが可能なのか・・?

「あなたたちは見くびりすぎた。魔法使いは無敵と思っておられたか?平和ですな」

「どういうことだ・・」

「実際にご自分の目で確かめられたらどうかな。そちらの最高戦力は今も自らの手を汚し続けていますよ」


____右翼側の戦場

倒れた魔法使いたち。

敵陣の兵はみな、背中に大きなタンクを背負っていた。

「ここは終了じゃ。中心部が全滅だ。そちらの援護に回る」

「「「了解」」」

そこには、白い霧が広がっていた。

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