第五章 戦争の少女

第36話 悪霊

そしてあの会議からいよいよ一週間後。

正式に我が国が、連合軍からの宣戦布告を受け、戦争が始まる。

リーセルがいつかに張った王宮結界は、強度が確かなものだとされ、王族は避難しないらしい。

国民には、戦争があることを緩く端的に伝え、元からある、避難地域に避難が完了していた。

(ちなみに休暇に訪れた南側がそう。あっち側は、魔法使いがほぼおらず、平穏な場所なのだ)


現在時刻、早朝3時。

さすがに今日は寝坊なし。

先に決めておいた服に袖を通す。

黒なのは確定だったが、今回は動きやすさも重視した軍服風だ。

癖のかかった桃色の髪は、左右にきつく結ばれ、魔女帽子も今日はかぶっている。


「えーーと。のぉー、地図どこにやったー?」

「知るかーんなもんー」

当日の朝、忘れ物に気づく定期。

引きしまった雰囲気でここまで来たのに、なんだこの馬鹿丸出しのゆるゆる感は。

「なんかベッド脇に置いたりしてなかった?昨日寝る前に確認した時に」

「おお!ナイスじゃリン!」

「良かったですねー」


「あああ!急がねば!集合時間まであと1分切ったぞ!」

「直前に君がトイレいくからでしょ!?ほんとに馬鹿!危機感!!」

「馬鹿馬鹿連呼するでない!悲しくなるわ!」

「君までメンタル硝子がらすになったの!?」

騒がしい・・・。大戦争当日の、早朝三時に、こんなに騒がしくしてるやつがどこにいるんだよ。

・・・ここにいました。


なんやかんや言い合いながら、窓から飛び降りた少女は、光速で集合場所まで向かった。

光速での飛行は、数値で表せないほどの速さになる。1秒もかかりはしない。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・

「どうしたんだよ。戦闘前にもう体力切れか?遅刻癖は直らないな」

「うるせぇ硝子メンタル。埋めるぞ」

「今そんなこと言うな。縁起の悪い。」

「悪かったな。心配するでない。息切れは飛んできたことが理由ではない」


ノッポに声をかけられながら、言い合いで切れていた酸素を吸いなおす。

既に、いや当たり前だが、もうメンバーはそろいきっていた。

いつもの決起集会風の適当な集合とはわけが違う。

今ここには、おそらく国の総戦力がある。

人数にして、約500万、だったか。

それでも、連合軍の総戦力には遠く及ばない。

全ては、自分にかかってる。それを少女も分かりきっている。

目に紅い決意を灯して前を向いた。


「では」

総指揮官が一声だけをかけた。

それだけで、各隊はすでに行動を起こし始める。

「よし、俺らも行こう」

「ああ」


「ソルガニート様は瞬間移動魔法でお送りします。虹翼こうよく様はご自分で」

王宮で見たことがある。ワープの専門家だ。戦闘には参加しないが、彼女らサポート役も、立派な魔法使いだ。

「このワシをそこまで適当に扱ったやつは久々だな。いいぞ。嫌いじゃない」

「では、ご武運を。お早くお行きください」

ふっ、と笑うと、少女も光速飛行を展開した。




ザクっ、と地面に大鎌が突き刺された。

「これはこれは、初陣であなたにお会いできるとは思ってませんでしたな。死にたがりですかい?」

「拡声器か?妙な技術を使うもんじゃ」

「ふふ。技術に乏しいそちらでは分かるまい。君たちは悪霊だ」

仮想空間の方がまだマシだったかもしれない。

戦力は直前まで上がるもの。ザッと見積もって150万か。

圧倒的な戦力差。


         1対150万


「そうか、悪霊か」

そう言って少女は、突き刺していた大鎌を引き抜いた。

「悪霊なら、ワシ一人で十分じゃ」







_____プチ情報

少女がよく勝手に武器を持っていますが、これはどれも、光で具現化したものです。

今回は大鎌です。

死神の大鎌を想像してもらったらいいと思います。

今回の少女は、死神モチーフです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る