第35話 大光矢

それからの一週間を、少女は何かと忙しく過ごしていた。

食糧は国側が用意してくれるらしいから、正直こっちから持っていくものは特にない。


しかし、少女は考えないといけないことがあった。

「さて、どの順序でやっていくかな」

前進を第二の優先度に置いているが故に、戦場でノロノロと戦い方を考えてはいられない。


国は、内通者を通して、ある程度の敵の位置を把握していた。

それを書いた地図をもらったが、広範囲が過ぎる。

「広範囲攻撃をとりあえず撃って進む?」

「いや、それだと硝子メンタルの残飯処理が大変になんるじゃろう」

まあとれもそうか。

少女なりに、ちゃんとノッポのことを考えているみたいだ。

安心安心。


「となれば、道は一つじゃ」

得意げに言うと、ソファから立ち上がった。

「練習場に行くぞ!」



「なにするの?」

エルナード城内に位置する、魔法使いの練習場に来ていた。

戦場に備えてか、それなりにたくさんの人が来ている。

「決まっておろう。今ある魔法で無理なら、作ればよい!」

「あ、あははは・・」

そうやってすぐに新しい技を作り出せるのは君だけなんだよな・・・。



「仮想空間を使いたいんじゃが」

「はい。了解しました。細かい調整をお聞きしても?」

練習場から、健康診断の時に使った仮想空間の練習場も使うことができる。

また、敵の数や配置、敵の耐久値、攻撃パターンまで指定できる優れものだ。


「えーと、当日の敵数が、130万。範囲が12㎞か。この数値のまま頼めるか?耐久値はひとまず一体2万ずつで」

「分かりました。では、2番入り口からお入りください」




「はー壮観じゃなー」

「なにこの光景」

当日ここに立つのか・・・。考えたくない。


リーセルが今立っているのは、12㎞の中心地点。

左右6㎞ずつに、大量の光矢を用意して発射した。


「ふーむ微妙じゃな」

納得のいかない表情を見せると、少女は空中に飛び上がった。

倒せたのは良く見積もって20万。

一撃一撃の攻撃力が弱いことに加えて、さすがに数が多すぎる。

「リセット頼む」

「了解です」

倒した分の敵を、担当のお姉さんに直してもらう。


「高火力かつ範囲攻撃か・・・」

「どーするー?このままじゃリーセル、ノッポよりも先に踏みつぶされるよ」


そのあとも、何パターンか試してみた。

矢をやめて、素の光の攻撃をあてるのも試す。


「ま、これだけやって無理ということは、個体の攻撃力をあげるほかないじゃろうな」

どれも、一撃で仕留めきれる技にはならなかった。

「出来るの?そんなの」

「ははん。ワシを誰だと思っとる。技のストックごとき、いくらでもあるんじゃ!」

えっへん。だそうだ。


      ・

      ・

      ・



ラーラーラー ラララー  ラララー ラララー  

「あ"、ごめん寝てた」

「かまわん。霊気の使いすぎじゃな」

「ここ、霊塔?」

寝ぼけながらあたりを見回すと、霊塔内の神像のそばにいた。

「好きなんだね。霊塔」

ご丁寧に手を組み合わせ、目をつむっていたらしい。

「讃美歌などは知らんぞ?これはワシが好きな音楽なだけじゃ」

こういう所だけは、妙に真面目なのが少女だ。


「ああ、眠いな」

「そろそろ帰るr

「よし、面倒じゃからここで寝てやる」

出た出た出た。言うと思いましたよ。

「透明化を施して、長椅子に雲を作って轢けば。良い良い!」

「帰れ。即刻帰れ。女神さまに祟られるぞ」

ガキだ。尽くガキだ。この神聖な場所で夜を明かす馬鹿がどこにいる。

「帰んなさい」

「めんどい。風呂めんどい」

頑な・・・。もう長椅子に寝そべってやがる。

「分かった。お風呂は今日はいいから」

「本当か!?なら帰ろう」

「え」

「ん?」

「あ、いや」

単純・・・・・・・・・

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