第34話 メンタル

「ワシの速度に、おぬしがついてこれる訳がない。よって、別行動じゃ」

「適当は嫌いだよ。こういうのはちゃんとしないと。虹翼さんの名が汚れるよ?」

「なんじゃ、変なところで丁寧じゃな。めんどくさい」

少女は、関係ねーといった様子で肩をすくめる。

じいさんも言っていたが、共闘するんだから、しっかり意思疎通ぐらいは取ってほしいものだ。


「はぁ。けど、俺も馬鹿じゃあない。君に走って追いつけないことぐらいわかっている」

「ほう、なら話は早い。ワシは全部適当に吹っ飛ばしながら前進を最優先に動く。おぬしは残飯処理じゃ」

普通に考えて、屈辱の提案だろうに、ノッポはそれを飲んだ。

「わかった。しかし、君が死ぬともうこの国は終わりだ。その自覚はあるのだろう?」

「ああ」

「死ぬな。最優先は死なないことだ」

「!」

驚いた表情を見せた。少女は、自己犠牲の面が強い。それを彼は分かっていたのだろう。人気を一概に否定はできないのかもしれない。


「じゃあ、また明日。決戦の地は暖かい。そのモコモコでは暑くなるぞ」

「ふっ。ああ」



「あー休暇とは早いもんじゃな」

「そゆもんですよ」

「まあな」

空中を飛びながらぼけーっと話しかけてきた。

「・・・服装、考え直さねばな」

「黒なんだよね」

「ああ、しかし、魔法使いの正装というと赤なんじゃぞ?なぜワシだけ黒なのか・・」

「問題児だからでしょ」

「うるせぇな」

しかしあの葬式レベルのものが正装っていうのも中々だけど。





「では、救護部隊はこっちへ。指揮はマスター2級のヒーラーが執る。

次に援護部隊。火鳥は全員ここに。 うんたらかんたら・・・

明日、になりました。

昨日で仕事は決まってしまった前衛コンビは、特にやることもなく、ぐーたら中だ。


「ソルガニート様は今回どちらで?」

魔法学校の、高等部の生徒か?ソルガニートの後輩ファンかな。が、ノッポに頬を染めながら問っている。

「俺は今回前衛で。虹翼殿と共にね」

「こ、虹翼と・・!さすがですね・・」

「それはどうも」


「愛想笑いも疲れるじゃろう。大変じゃな」

ノッポに視線を向けず、昼食に配られたパンにかじりつきながら少女が言った。

「君に真顔でそう言われると割と傷つくんだけれど?」

「それはお気の毒に。先の女の反応から分かるように、ワシは嫌われ者じゃからな」

「君それ自分で言って傷つかないのかい?」

「なんだ、メンタル硝子か?」

「い、いや、もういい」

「ふーん」

ノッポは、少女のいちいち棘まみれの発言に慣れないらしい。

胃が痛そうな顔してる・・・。


「結局、学徒兵も連れて行くんじゃな」

「みたいだね。コモン3級以上に召集をかけたらしい。無所属魔法使いも割といるみたいだよ」

「死ぬだけじゃな」

「相手の出方次第だよ。命を懸ける人たちに希望を失わせるな」

硝子メンタルにしては、キリっとした表情で少女を諭した。

少女は、その表情と発言を深く心に留めるように、下を向いた。

「・・・無駄に希望を与える方が、無慈悲ではないか?」

「・・・まあね・・・」

「お前やっぱりメンタルクソだろ」

「食い気味で言わなくても・・」

「生徒会長という話は誤報か?」

「俺だってそう思いたいぐらいだよ」

「・・・」

少女は沈黙で話を続けるよう訴えた。

それに答えるように、ノッポも口を開いた。


「君ほどじゃないけど、草虎が希少なのはしっているかい?」

「ああ。先天性よりも後天性の方が重視されはすると聞くが」

「その通り。けれど俺も、学園に入学する前から、先生やお役人に、あれよあれよと期待されてね。君の言う通り、メンタルの弱い俺には十分重圧だったよ。

見た目だけはいいものがついてきたから、慕ってはもらえたよ。おかげで、先生が望む通り、生徒会長なんて肩書も背負った」

「ほう、重圧か」

「まあ、君の方が僕なんかよりずっと思い重圧に耐えているだろうけどね」

「いや、ワシは重圧など考えたことはないな。生涯、そうであろうしな」

「!」

「ん?」

驚いた表情を見せたノッポに、少女は首を傾げた。

しかし、その無垢な少女を見たノッポは、柔らかい表情で、少女の頭を撫でた。


少女は、一瞬、手を払いのけようとしたが、ノッポをぼーっと見つめた。

「・・・・・・・なんだ、ロリコンか?」

「考えられる最悪の返答をしてきたね」

どうせいい返答は来ないと予測していたのか、表情を変えず一瞬で返答した。

「ワシは硝子メンタルは好かんぞ」

「だろうな」

「だが、正直な奴は好きだぞ」

今度はノッポが驚かされる番だった。

「あと、イケメンでスタイルが良くて頭が良くてSっ気があって、ちゃんと努力をする人だがな」

「Sっ気・・・。君のその変な性格の根本はそれか・・・」

「これだけは譲れん条件じゃ」

「ああそう」

拍子抜けしたようにガクっとすると、ノッポは少女の頭から手を離した。

「じゃあ、来週、よろしくな」

「ああ、せいぜい死なないように努力する」

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