第33話 草虎と会議

「次から気をつけなさい」

「おー」

お偉いさんもいいところのお偉いさんに注意されているのに、ぼけーっとした返事しかしない少女を見て、少年二人はドン引き中だ。


「マスター5級、風龍のリザーブ、その他、あの遠征に向っていた者は欠席だ」

「しょっぼ」

少女辛辣ぅ~

「今回ばかりは、返す言葉もないな」

遠征の指揮担当の役人も、どうしようもないといった様子だ。

少女は、学校内で人が変わったように大人しいが、王宮内でも別人のように、世の中を舐め腐った性格になるのだ・・・。


「ひとまず、新たなメンバーを紹介しようか。エルナード魔法学園中等部3回生、風龍のイリス、同じくウェイリルだ。階級はどちらもマスター1級」

「クソガキとタメか?」

「ああ。なんだ?文句でもあるのか?」

「いや、強いのなら何も言わない。お前がそう言うなら、大丈夫なんだろう」

少女の隣に座っていた草虎が聞いてきた。

マスター2級・ソルガニート。まだ青年と呼べるほどの年齢だったはずだ。リーセルとの仲は良くも悪くも、といった程度だ。

しかし、顔が良く身長がもある好青年のため、民衆や後輩からのお人気は高いらしい。(エルナード魔法学園既卒です)


「ほれほれ、紹介などどうでもいいじゃろう。座れ。隣、空いとるぞ」

いつもと打って変わって楽しそうに話す少女を見て、会議メンバーは引いてるな。



「進軍推定日は一週間後。数はわからないですが、連合軍であることを考えると、相当数としか言いようがありません」

誰かの秘書さんらしき女性が、現状を説明する。

要はやばいってことだ。

「当日、出動できるマスターランクは、おそらくこれが最大数だ」

「リザーブさんは?」

「彼は、長時間の療養が必要だと、医者が」

「んなんでどうするんすか。相当数って言ったって、歩兵だけでも100万は優に超えることは確かでしょう?」

「使える人選をするなら、エキスパート以上であることも必須でしょう」

「それなら数のいる学徒兵はほとんど出れませんよ?」

「しかし、無駄に数をすり減らすよりは・・・」

論争が次から次へと飛び交う。

仕方のないことだ。今彼らが言っていることはどれも的を射ている。

それだけの内容を考えないといけない。


「ワシの見張りに置かれている役人どもは、階級もある程度あるのだろう?彼らだけでも20人弱はおるぞ。そのような外せる仕事のやつからまず絞っていくべきではないのか?」

論争になっていた会議室が、サッと静かになった。

言い方はうざいが、内容は正論、そしてぶっ飛んでいる。

見張り・・?とざわめく者たちもいる。

「虹翼。お前には当日も前衛を任せる。お前で極力数を減らせ。アドバイスは、心に留めておくとしようか」

「・・・そうか」

会議室の一番奥の席に座っていたじいさんが答えた。

奥に座っているということは、この部屋で一番の大物だ。

ガキは余計な口をはさむなと言いたいのだろうか。


「い、一旦、こちらで考えてきた作戦を説明します。今おっしゃったように、虹翼様に、すべての前衛は任せます。風龍の学生お二人は、リザーブ様が欠けている分の風龍の仕事があるので後ほど。草虎のソルガニート様には、今回は虹翼様と共に前衛を頼みます。火鳥の方々は、・・・

誰かの秘書さんその2が、説明を始めた。


「クソガキととか嫌なんですけど」

背の高いソルガニートは、同じ高さの椅子に座っていても、目線が少女より遥に高い。

グワっと見下ろすように煽りかけてきた。

「奇遇じゃな。ワシも足手まといの世話は嫌いじゃ」

少女は、配られた資料に目を向け、ソルガニートには目もむけず言い放つ。

「ふっ」

好青年野郎は、ニヤリとしながらも、完全にキレた表情を少女に見せた。

「なんじゃ?」

そんな好青年野郎に、少女は下アングルからニヤリと笑い返した。


「作戦という名の人任せじゃな」

少女は、配られた資料に雑に目を通ながら言った。

「君はこのメンツの中にいても、その生意気性格が健在なんだね。怖いものだよ」

「悪いか?こいつらは馬鹿じゃぞ?」

「いい加減黙ろうかリーセルさん?」

あざと少年と酒豪少年に、それぞれ宥められた。


「では明日、部隊の編成を行う。エルナード城内の広場に」

例の大物お偉いさんが最後に言い、会議は終わった。

「おいクソガキさん。準備しようか?」

あざと野郎の煽りも大概だと思っていたんだが、こいつも中々だな。

少女には変なやつらばかりを集める性質があるらしい。

「おぬしのその態度を、ファンのやつらが知ったら、どんな反応をするのか気になるな」

またも好青年野郎を見向きもせずに前を向いたまま、少女は言った。

「心配なさらず。公衆の面前にはさらさない主義でね」

「生徒会長をしていたらしいな。おぬし今いくつじゃったか」

「今年で19だよ。君はまだ16歳だ。先輩を敬え?」

「まだまだガキじゃな。16であることに間違いはないが、ワシはなにぶんババアなもんでな」

「へえ?」

好青年野郎は、表情を変えずに少女を見下ろした。


「で、準備だけど、

「おぬしは戦場に行くのに、準備などするのか?」

「え?」

「具体的に何をするんじゃ?」

「何って。持っていくものを用意したり、作戦を考えたり」

「面倒だな。ワシはいつもそんなことしない。故に、いらんじゃろう。持ち物は各自の自由。作戦などいらん」

好青年野郎は、何かを察したように軽く頭を抱えた。

ご迷惑かけますねぇ申し訳ない。


「リーセル、共に戦ってくれるのだ。動きぐらい確認しあったらどうだ?」

声がした方を振り向くと、これまた見知った顔があった。

「おおクソジジイ!探しておったんじゃぞ?」

好青年野郎は、ウガッと言いたそうな表情を全開にして、少女を睨んできた。

しかしそれを無視して少女は続ける。

「ほれ、ワシが医局でぶっ倒れてた時のことじゃ。おぬし、殺させろと言ったのに、用事とか言って逃げおったじゃろ?」

「・・・先生。こいつ殺していいですか」

好青年野郎(長いな。ノッポに変えるか)は、まるで蛇のように舌を伸ばしてきた。

「・・・一応いかん」


「てことで、首出せ。ワシの血液を抜ききった罪じゃ」

「っ!?お、お前」

じいさんは、驚きを隠さず少女を見た。

そのあまりの驚きように、少女も首を傾げた。

「なんじゃ、心配せんでも痛めつける気は、」

「い、いや、もういい。その話は、絶対に誰にもするな」

「ん?あ、ああ」

じいさんは、驚いた表情のまま、さっと背を向けて歩き出した。




_____草虎の魔法

動物の力を使うことができるのが、草虎の魔法。

ノッポが舌を伸ばしたのは、舌に蛇の能力を付与した魔法を使ったから。

毒が含まれたその舌は、リーセルが常時の光壁をまとっていなかったら、普通に魔法使いにも効くレベルのもの。

虎という字が使われている理由は、この魔法が誕生したばかりのころは、実証実験で使われていた虎の能力のみが使用可能だと思われていたため。

新たな動物の能力を追加するには、いろいろめんどくさい手順があるらしい。

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