第四章 少女
第32話 昇級
「あ~ねむ」
今日は戦場とか昨日言ってたの誰ですか一体。
そう僕です。今日は戦場じゃなくてガッツリ会議でした。
まだ半分寝ながら、髪をツインテールに結び、制服という名のロリータ服に袖を通す。
はずが、
「寒い。無理」
訳・寒すぎて着替えるという行為に至れない。
例のいもむし状態で暖炉の前まで行き、火力マックスにしてなんとか着替えた。
「あれ、今日は黒じゃないんだ」
少女は、基本ロリータ服でも黒のをよく着ている。
それも、葬式かと思うぐらいの、全身真っ黒のものをだ。
追求したわけではないけど、勝手に黒が好きなのかと思っていた。
「ああ、ワシの制服には黒色のみという縛りだけはあるんじゃ。戦場の時はな。じゃが今日は会議じゃ。好きな色で構わんじゃろう」
そういって身に着けていたのは、黄色のロリータ服だった。
少女の薄い桃色の髪とよく似あっている。
「ワシは黄色と青が好きなんじゃ。ちゃんと覚えておくんじゃぞ?」
やたら自慢げにフフンッと鼻をならして言う。
そういえば、他の学生たちも、既卒の魔法使いでも、基本赤い制服を着ていたな。
少女だけ別の色なのか。問題児扱いか。
基本ロリータ服というと、着込むことになるはずなのに、その上に上着まで羽織った。
準備が済むと、暖炉やそこら中で焚いていた火を消し、二階の窓から、よっ、と言いながら落下していく。
家自体が割と高地に立っているので、その高さのまま飛んでいくと酸素不足で死ぬからだ。
この形は、ロングケープとでも言うんだろうか。
袖の形を除いたロングコート着ているから、腕を広げて飛ぶ少女は、可愛らしい。モモンガだ。
加えて、珍しく、王宮に行くというのに、少し笑っているように見える。
「随分陽気じゃん」
「そうじゃな。どうやって国のジジイ共を社会的に打ち負かしてやろうか考えているからかの」
クズだった。
エルナード城の敷地内に入ったところで、何やら人だかりが出来ていた。
「なんじゃなんじゃ?」
魔法使いたちが溜まっていた。なにかトラブルか?
と思っていたら、見知った後姿が目に入った。
「おお!イリス、ウィエイリルではないか!」
「あれ、光翼さん。会議だというのに、随分ゆっくりじゃないか」
あざと野郎&酒豪少年だ。
「今日は黄色の服なんだね。珍しい」
「今日は会議じゃからな!好きな色で構わんじゃろう?」
少女は腰に手を当てて、満足気だ。可愛い・・・。
「うーん。可愛いけど、会議だからこそ正装が良かったとは思うけどね」
「あっ」
やらかし。
「そんなことより、どうしたんじゃ?みんなしてたまって」
「ランク発表さ。不定期とはいえ、こんなに忙しいときに発表とはね」
「ほう!」
エルナードの魔法使いたちには階級がある。
リーセルは学生最高のマスター3級。(学生にはマスター3級までしか与えられないシステムだ)
少年二人は、たしかエキスパート4級だったか。
その階級は年に約三回、不定期に更新される。
階級更新に加え、活躍度などを基準に順位まで張り出されるくらいで、魔法使いたちの間では、一大イベントになっている。
あざと少年の言う通り、こんなに他国の合同進軍で忙しいときになんで発表を。
「おい、見ろ。
「学生でこんなことって。前例あるのか?」
「特例だろ?マスター5級の連中があのザマだったんだ。仕方なかったんだろ」
「皮肉にも、実力は申し分ないですからね」
集まってきた魔法使いたちが、コソコソとこっちを見て話している。
当たり前だが、学生で最強のリーセルが、他の魔法使いたちに、好かれているわけもなかった。
「おぬしらはもう見たのか?」
「ああ、聞くかい?」
「ボクたちが今日ここに来た理由もそれだしね」
「ん?なんじゃ。順位良かったのか?」
「それもそうだけど!」
なにやら自慢げな酒豪少年にせかされて、少女は詳細の書かれた結果を見た。
「「!!!」」
「わ、ワシがマスター5級に昇級・・・!?」
紙には、確かに
リーセル・フルーゲル学徒兵 マスターランク5級に昇級 と書かれていた。
「まず自分のことなのね・・」
「な、は?学生には3級までだと・・」
少女はさすがに驚いた表情で、この手のことに詳しい酒豪少年を振り返った。
「それが、さっき外野が言っていたことだよ。特例だね」
「活躍順位も、ワシが一位・・・」
「ほら、5級の風龍やらが軒並み倒されただろう?そのおかげで君の評価が上がったんだろうね」
「ほほう。な、なんじゃ。悪い気分ではないな!」
「ずっと前から、この手のには興味ないって言ってなかったっけ・・?」
「な!おぬしら!マスター1級に上がっとるではないか!」
「それをさっき言ってたんだよ・・」
あざと少年は、呆れたという表情をしながらも、どこか嬉しそうだ。
「この前の協会の任務達成が大きく響いてくれたみたいだね」
「じゃからおぬしら、わざわざここにいるのか」
今日の会議は、マスターランクと国のお偉いさんとの会議だ。
もちろん、会場は例にもれず、王宮のどこかの一室。
「なんじゃなんじゃ!早く言ってくれれば良かったのに!学生のマスターランクが増えたのはワシ、嬉しいぞ!脳筋のおっさん達しかおらんかったからな!」
学生のマスターランクは、今までリーセルだけだった。
それに、学生、しかも唯一の友人二人が追加になったのは、少女も嬉しいようだ。
「さすがの天才さんも、お偉いさんたちを前にしては、見栄を張れないみたいだね」
「んなことではないわい!」
いや、お偉いさんを前に、机をたたき割る芸当は、この子の特権だろうな・・・。
「さ、そろそろ行くよ。遅刻しちゃう」
「あいつら、30分前に着いたとて、怒るんじゃぞ?今何分前じゃ?」
「えーっと、
あざと少年が魔法で時計を出すが、それを見た三人は、顔から血の気を引かせた。
「早く行くぞ!」
少女は、魔女帽子を手で抑えると、爆速で王宮へぶっ飛んでいった。
「馬鹿、早すぎるぞ!」
「あははー初日から遅刻かー。問題児もいいところかもねー」
「ウェイリル!お前は急げ!」
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