第31話 リン Ⅱ

外はもう橙色になってきていた。

少女は、暖炉の火が消えてしまったにも関わらず、まだ気持ちよさそうに眠っている。


膝と、毛布と本とクッションも抱えて。

一人用ソファいいな。


「ウガッ」

この子、なんでこんな寝言をたてるんだ・・・。

「うにゃあ~眠い~死ぬ~」

緩く結ばれたツインテールを肩に落とし、目をこすりながらぼやいた。

「そんな死ぬばっかり言わないの」

「倒れる~壊れる~」

「一緒です」

起きたらしい。


「お嬢さん、もう夕方ですよ」

「やー。もうここで夜を明かしてやるんじゃ」

「わがまま言わないの」

ここから動くまいと、ソファにかじりついている。

別にそれでもいいんだけど、

「ご飯だけは食べて」

「ぬ・・・」

「健康診断やらなんやらで、あれだけの人に注意されたんだから」

「わかったわかった」

渋々ソファから体を起こしたと思ったら、トンっと下に落ちただけだった。

そこからは、毛布にくるまったまま、いもむし状態でキッチンまで進んでいる。


食糧庫の冷凍保存スペースまで来た。

が、ちーん、と少女の動きが停止したと思ったら、引き返そうとしだしている。

「さっぶ」

「冷凍食品で済まそうとした君がいけないのでは?」

「にゅうう・・・」

いもむし状態でなんとか中に入り、なにやら上に手を伸ばしている。

「くっ・・・」

え、当たり前だよね?この子馬鹿?届かないなら立てよ。


早々に諦めて魔法を使うという、もうなんか文句を言うならいくらでも溢れそう。

ちなみに食べるのは、行きつけのお姉さんのカフェのサンドウィッチだ。

大量に買って、冷凍保存をしている。

究極のめんどくさがり・・・。



「うまーー」

「よかったねー」

定位置に戻り、例のマヨ増しのサンドウィッチを頬張っている。

頼むからマヨの脂肪分さん、少女の脂肪になってくれ。



食べ終わったと思えば、結局ソファで寝てしまった。

一応、全面がガラス張りになっているから、光不足になることはない。



僕は最近、自身の体を、定位置から離す方法を見つけた。

さっき、少女の前に座れていたのも、そのためだ。

少女は知らないけど。

お気づきの通り、僕には実体はない。

だから、まあ幽体離脱みたいなものかな。


少女が眠っているのを再確認すると、僕は霊体(そう呼ぶことにする)になり、歩き出した。

来たのは、少女の研究室だ。

少女の研究内容は、霊気の生成と蓄積について、だとはこの前いったことがあったはず。

ここに来た目的はそれだ。


僕の今の霊体は、霊気からできているはずだ。

少女の研究に、今のところ進展はほぼない。

それに間違いはない。

しかし、給料のせいで、設備だけは十分にあるのだ。


いくつかあてはあった。

少女の研究する姿をずっと見てきたのだ。


霊気に反応する機械に触れてみた。

ランプが光った。やっぱり。


霊気量を測る機械では、うーん。そこそこ、といったところだろうか。

平均よりは多いだろうが、少女の莫大な量には、もちろん到底及ばない。



僕が少女のもとに来たのは、少女が齢わずか5歳の時。

その次の日は、ちょうどあの寮の部屋で惨劇があった日だった。

その次の日は、少女が王宮に連れてこられた日。

そのまた次に日には、少女はこの家に放り出された。

そして次の日には、また戦場で数千の敵を吹っ飛ばしていた。

僕の存在を明確に認識しだしたのはそれから一か月後。


僕は少女に嘘をついてきた。



研究室を出た僕は、裏の丘に登った。そこに高台がある。

いるのは、少女を知る国のお役人。

「俺です」

「どういうことだ」

「幽体離脱っすかね」

「・・そうか。で?」

「今日は一日ぼけーっと過ごしてましたよ。見てた通りっす。ただ・・」

「ただ?」

「気づきだしてますね。早いほうがいいっすよ。たぶん」

「なぜ気づく要素があった?」

「寮の部屋の掃除、してなかったでしょ。見せはしなかったけど、さすがに年数たってても匂いで気づきますよ」

「部屋に入れるなといっただろ」

「すんません」

「とりあえず分かった。伝えておく。お前はもう戻れ。有効距離は遠くないはずだ」

「っす」




報告を受けた役人は、霊気通信を使った。

「奴が幽体離脱して報告にきましたよ」

「・・・」

「No.01が、例の件に気づきだしている可能性があるとの報告を受けました。寮の部屋が原因らしいです」

「了解」




_____少女の「光」について


リン:少女は、光を浴び続けないと生きていけない。勿論、24時間ずっとではない。

けど、寝てる間を光に当たらず過ごすと、霊気が吹っ飛ぶ、らしい。

光翼以外の属性持ちの魔法使いたちも適度に触れないといけないらしいけど、少女ほど過度にではない。

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