第24話 兄二人、妹一人

「おいイリス、荷物もて」

「はあ?僕のこと馬鹿にしているわけ?」

「レディファーストがなっとらんのお、まったく」

「ひたすら自分のことババア呼ばわりしといて今更それはないよねえ」


「うん、二人揃ってこっち見てるけど、ボクは何もしないよ?」

「ウェイリルー、リーセルに虐められてます-」

こいつら、いっこうに進まないけど、大丈夫なのか?

「うーん、ボクたちの魔法なら荷物って浮かせられると思うんだけどなー」

「「あ」」

「言うのが遅いぞ酒豪」

「あらこれは失敬」

気づいていてわざと言わなかったのだろうが、当の本人はリンゴ酒片手に楽しそうだ。



「ねえ二人とも、お酒を出す魔法とか知らない?」

「知らんな」

「ボクも知らないし、以前に同じ質問を何回もされているけど?」

悲報、酒豪少年の酒の在庫が底をついたらしい。

悲報か?それは知らんけども。


「そもそも、魔法は具体的な物質を作り出すのは難じゃろ?」

「おっしゃるとおりで」

ガクッと項垂れながら、酒豪少年も答えた。分かりきっていたいたらしい。


霊気

その名称の根源は「魂」だとされる。

要は、魂が強力であるほど、霊気量が多いと表現することが出来る。

しかし、あくまでそう言っているだけで、魂に強弱があるのか、定かでは無いらしい。


霊気は視認できるものではない。

霊気量を図ることができる魔法使いは一定数いるが、それも全員ではない。

だから、健康診断のときのような装置が開発されたとも言えるが、仕組みがどうなのかは謎の儘だ。


そもそも魂というの存在自体、雲の上の話だと思うのだが。



「はあ、どうしようかな・・・」

項垂れたまま、トボトボ歩く酒豪少年を見て、弟妹コンビはコソコソと話した。

「おい、こいつ、酒の無いまま数日過ごした暁には・・」

「ああ、確実にかんしゃくを起こされると思った方がよさそうだね」

「なに二人でコソコソ話してるの。聞こえるからね」

すでに危なそうな目線でじろっとこっちを睨んできている。

タイムリミットは近いかもしれない。


「はあ、仕方が無い。複製魔法を考えてみるかな」

「え!ほんと?」

酒豪少年、早くも元気を取り戻した模様。

「しかし、当面の戦闘は二人に任せる。酒豪、リンゴ酒の余りよこせ」

「もちろんです!」

「なんだか、僕無駄に被害受けてないかい?」

間違いない。

「どーしたの?イリス」

ゆらっと振り向きざまにガン飛ばされたらしく、あざと野郎も渋々首を振った。

「いや、なにもないよ」


ちびっこ三人衆の苦労人は誰かと思っていたけど、どうやら、どっちもどっちの関係みたいだ。




「正気か貴様ら」

「まさかエリートさんは野宿も経験したことがないとはね」

「イリス、その手の悪口、ワシは好かんぞ」

少女は絶望の淵に立たされたらしい。固い地面の上で寝るなんて考えられないらしい。

「にしても、そんなに嫌かなあ」

「夜光に常時当たれるという点は良い。じゃが、ワシはフワフワベッドが、」

「さ、ご飯食べよー」

あざと野郎、容赦なくリーセルの弁解をぶった切った。


「ご飯ねー、魔法協会が結構持たせてくれたから、色々あるけど。イリス何がいい?」

魔法協会は気前が良い。

十分な食料はもとより、その他必要なものも全て揃えてくれていた。

野宿って言ったって、実際はリーセルが卑下するほど悪環境でもない。


「僕はなんでもいいよ。この子のご機嫌をとってあげて」

「しょんぼりリーセルちゃーん。夜ご飯、何食べたい?」

子供のようにしょぼくれてた少女は、酒豪少年に声を掛けられて振り向いた。

「・・・さかな」

「やっぱり想像よりも意外なところ突くね。りょーかい」


しょんぼりを余所に、少年二人は夕食の準備を進めていた。

「生魚なんて、どうやって持ってきたんだい?」

「冷凍だってさ。リーセルが食べたがると思って、頼んでおいたんだ」

酒豪少年は、食料を入れていたかばんから、冷凍された魚を三切れ取り出した。

「じゃあ明日は、」

「分かってるよーうどんでしょ?」

あざと野郎がこくっと頷くと、酒豪少年はふっと笑みを浮かべた。

「揃いもそろって意外な物が好きだよねえ」

「その見た目で酒好きには言われたくないな」


あー、リーセル、一切れ食べきれないかな。

多分ね。

だからガリガリなのに。

いつかぶっ倒れてそうだよね~

こら、そんなこと言わない。


雑談を挟みながらも、ちゃんと夕食を作ってくれたようだ。感謝感謝。


串に刺して塩をふったシンプルな焼き魚、にパン。

組み合わせはおかしいが、そんな贅沢も言ってられない。野宿なんてこんなもんだろう。


しょんぼりも、魚の匂いにつられたらしく、焚き火のそばにちょんと座ってご飯を食べた。

「ふ、ふわふわじゃ」

ほわわーと目を輝かせた。気に入ったらしい。

「当たり前でしょ。ちゃんと風で火加減を調節したんだから」

「寮のご飯で、薄くて固い焼き魚が出たとき、リーセルが調理場に文句言いに行ってたの懐かしーねー」

「まったく、贅沢だね」


「美味しいぞ!なんじゃおぬしら、料理まで出来たとはな!これで任務中の食事には困らなさそうじゃな」

あ、と少年二人が気づいたときにはもう遅い。少女は食事関係を二人に丸投げすると決めたようだ。

「ねえそこはせめて当ばn

「なんじゃイリス?今日はおとなしく野宿をしようと思ったんじゃが、何かあるのか?」

「・・・いや、君がフワフワベッドを諦めてかんしゃくも起こさないなら、それに超したことはないね」

「今夜は平和に寝れそうだね」



そして、寒がり弟妹に、ありったけの防寒対策をとらせて、今日は無事に終わりを迎えられた。


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