第三章 少女の遠征

第21話 次の旅路へ

王宮結界の騒動は一先ず落ち着いたらしい。

結界が破られて以降、特に他国からの追撃も無く、平穏が保たれていた。


少女も、結界張りのお仕事の後、金一封と休日を貰い、満足しているみたいだ。


そして今日は久しぶりの登校である。


起床は最早語るのが面倒なので割愛。

授業は二時間目かららしく、今日は余裕がありそうだ。


さっき、学園からの伝令の鳥がやってきて、授業の後に、また頼み事があるらしい。

多分学園側も、リーセルをまともに学校に通わせるつもりないよな。



エルナードにもいよいよ冬が訪れており、寒い。

当たり前だ。空を爆速で飛んでいて寒くないわけがない。

はずなのだが、寒さ対策のためだけに少女はシールドを張っているらしい。


霊気がむだーといつもなら言う僕も、この季節では何も言えない。

なにせ、少女はおかしいぐらいの冷え性だからだ。(デデン)

元から白い肌は、血色が悪くなり、

肉のついていない手は保冷剤化、幽霊かな?

運動をしても汗をかかずに、ひたすら寒がる少女を、風晒しにするほど僕も冷たくない。(対応が)


しかし、当の本人は冬だからと、モコモコの服が沢山着れるからと嬉しいみたいだ。

暖炉に薪をくべ、毛布にくるまれるのもまた冬の醍醐味なのか。うん、共感できなくはないな。



二時間目の授業、遅刻回避。素晴らしい。

科目は砲撃の投射についてか。


リーセルは中等部に上がるときに、兵魔法使いを目指す科で登録してる。

少女の趣味を考えるなら、薬学辺りが学びたいだろうけど、それは公魔法使いの領分だ。

砲撃が投射されてから着弾点を予想する方法や、砲撃の種類別に使うべきシールドの話など、どれも光でゴリ押しできる内容だ。


案の定、少女、爆睡。

エル学では個人の活動を重視してくれるため、学校を休みまくっているリーセルも、留年になることは無い。

一応、授業は、科ごとに指定されているけど、それも出席必須では無い。

要は、将来どんな形であっても、国にとって使える人財になっていればそれでいいんだろう。


・・・じゃあなぜ来たこの子は。

後で聞いてみたら、大砲を連続で撃つ魔法を作りたいから、原理を知りに来たらしい。


この国において、魔法の使い方を学ぶ方法は二つ。

一つは誰かから教えてもらう。

しかしこれは、物を浮かせたりといった、超簡易的な魔法に限った話だ。


二つに自分で研究する。

魔術書に書いてあるものは、あくまでその研究結果に過ぎず、その結果を受けて、自分に魔法の使い方を落とし込まないといけない。

回りくどい。


そのため、魔法使い達はどれか一つの魔法に特化したタイプの人ばかりで、彼らは生涯でその魔法を完成させる。

最近は兵魔法使いの教育課程に、一の方法で銃弾を生み出す魔法が教えられるようになったらしい。



授業フィニッシュ。

そそくさと講堂を出て、呼ばれていた先生の元まで行く。

教官室の、学生達の派遣を担っている部からのお声がけだ。

これはまた面倒くさい依頼だな。


「こんにちは教官殿。お呼びでしょうか」

学校限定の営業スマイルで少女が一人の教官に声をかけた。

「ああ、悪いわね」

「げっ、おぬしかい」

うがっと僕も冷や汗をかいたが、声を掛けた女性の顔を見て察しがついた。

王宮とのお繋がりもあり、リーセルをしょっちゅう厄介現場に巻き込むお役人さんだ。


以前、エルナードの最果ての大荒れ死地に掘り出されたことがあるんだよな。

さすがに12の少女と北の大魔物との戦いは生きた心地がしなかった。


「はい、今回の頼み事」

半分目を背けながら、依頼内容の書かれた紙を見て、少女は少し驚いたような表情を見せた。

「なんじゃ、魔法協会からの依頼とは珍しい」

「今までに何人もの魔法使いが派遣されているけど、どれも行方不明と同時に失敗に終わっているそうよ。まあ、暇つぶし程度にはなるでしょ」

「簡単に言ってくれるな、まったく」


依頼内容は、無法地帯の大魔物の討伐。

周辺に霊気の湧き所がある可能性があるため、国が足を踏み入れたいらしい。


「討伐自体はやるが、この地域、道中何もないじゃろ?」

「ええそうね、北部地域だから。道中も魔物が沢山居ると思った方が良いわね。ちなみに、その討伐も依頼内容に含まれているわよ」

「なんじゃ、ちと面倒くさそうな依頼を持ってきたのう。狭いフィールドでの戦闘は苦手じゃと言っとろうにまったくもう。これだから魔法協会は。学生の貴重なキャンパスライフを邪魔しおって」モゴモゴモゴ・・・

またこうやって駄々を捏ねる。


「はいはい、どうせそう言うだろうと思って、今回は単独任務という形にはしていないの。あと二人、同じ任務を任せる子がいるから、彼らと同行して」

「それに北部地域ならここよりも遙かに寒い。防寒着必須か、荷物が増える」

ぶつくさ言いながら、女性の話を一応聞いていた少女は、沈黙の後、にやっと笑った。

「・・・あ?同行じゃと?・・・ふん。ならそやつらを荷物持ちに出来るな」



「荷物持ちはごめんだよ?リーセル」

「まさか、あの虹翼様が一人で任務をこなせないとはね。どうやら過大評価をしていたようだ」

少女は声のする方に目をやり、物珍しい表情を浮かべた。

「・・・なんじゃ。久しい顔じゃな」

「ふふ、久しぶりだね。名高い虹翼さん」



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