第8話 返り血はない

「国の英雄になる」


だそうだ。


少女は寝顔から左目を少し開けると、浅く笑った。



第八話 返り血はない





桃色のツインテールが風に煽られる、いや、煽られるどころの騒ぎじゃない動きで空を切っていく。


そんな中なのに、霊気を使ってどこかの誰かが開発したという、霊気通信で上官が指示を送ってきた。

「虹翼、お前一人で全て蹴散らせ」


毎度おなじみの指令に、少女はにやりと笑い、たった一言返事をした。


「報酬に免じてだな」


あと数秒でロイヤルメルトの第一戦場に着く。

リーセルは戦闘前のお供・ミントチョコレートを口に放り込んだ。

そして目に紅く気合いを入れ直し初撃の構えをする。


一に、自身の周りに、シールドと攻撃力上昇のバフの効果を持った結界を張り、

二に、両手に斬撃型の光魔法を展開。



次の瞬間、

視界が全て赤に染まる血液が宙を舞った。


初撃での成果は8割といったところだろうか。

初撃をあたえて、瞬きを終わらせる前に左手の第二撃が飛ばされた。


終了だ。


前回は返り血を全身に浴びるという悲惨な事態になったが今回は無事のようだ。


死を哀れむ間もなければ、初撃のタイミングでの瞬きを終わらせる間もなく少女は地面を蹴り、走り出した。

リーセルの戦闘方法は全て先手必勝だ。

相手の攻撃など受ける暇どころかさせる暇すら無い。


どんなザル警備システムでも初陣が崩壊すればその報告は一瞬で国中を巡る。

第二戦場につく頃にはもうその報告は廻っているだろう。


案の定、到着すると、想定の2,3倍の軍が待っていた。

相手はどうやらまだ少女を目視出来ていないようだ。

リーセルの目、左目にはすでに紅が灯され、標的となる敵が視界に捕らえられていた。

大きく飛び上がった金色の少女に敵陣が気づいたのは、攻撃を受けて意識がぶっ飛んだのと、どちらが先だっただろう。

金色の少女はその小さな手から爆炎を生み出し、敵陣の戦車に引火させた。

敵陣部隊は自身の爆炎に呑まれて吹き飛んだ。


こっちまで飛んできた火の粉はシールドによって反射され、地に返っていった。

眩しい金色を放つ少女は、空中で弧を描き、とっ、と地面に着地した。


そして、舐めていたミントチョコレートを飲み込んだ。


今の少女は、敵を殺すことが楽しかった。

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