第7話 寝坊はない
明日にはまた多くの命が少女の手によって吹き飛ぶ。
僕に出来ることはこの子に寄り添い続けることだけだった。
天上に輝く星々も、小さな少女に慈悲を感じているかのように、優しく、弱く光っていた。
第七話 寝坊はない
学校には絶対遅刻していくくせに、戦場の日は必ず起きるのは一体何故か。
僕のいつもの努力は何処に。
と駄々を捏ねたとしても、実際、戦地へ行く日の朝は早い。
早朝というより最早夜中に起床し、集合を言い渡されている場所に向かう。
今日の少女は桃色の髪を左右で縛って魔女帽子を被っている。
そして軍服のようなロリータ服のような、僕には知識外の話なのでよく分からないけど、そんなのを着ている。
真夜中のエルナードの上空を眩しい金色が突っ切っていく。
流石に今日は出発が真夜中なこともあり
リーセルが到着した頃には学徒兵がすでに集まっていた。
今回の戦場に参加する学徒兵は戦場へ赴くのは初めてと聞く。
長旅になるというのにどうしてそんな学徒兵を連れて行くのか。
まだ魔法を覚えだしたばかりのように見える学徒兵たちは、自身達も戦場という憧れの場所に向かえることに晴れやかな表情すら浮かべているように見えた。
これから自分たちがどんな事をするかも分からず戦場へ赴くんだ。
ろくな装備も無く、無駄に人数だけが多い。
今回リーセルとともに戦場へ参加するマスターランクは、昨日の会議で突っかかってきた、
マスター三級・水蛇のマリアナナイト、そしてもう一人、マスター一級の水蛇だ。
今回の敵国は火力重視とのことなので妥当な選択と言える。
貴重な水蛇のプロを失わないことを祈ろう。
「これより!今回の決戦場、火炎国ロイヤルメルトへと出発する!」
今回の軍隊長が何やら話し始めた。
毎回、こんな開けた場所でおおっぴらと作戦を説明される。
こんなんじゃあそこらの暴力団の決起集会と変わらないようにも見えるけど。
今回は相手国であるロイヤルメルトへこっちが攻め込む形だ。
「作戦だが、まず初陣は、マスター3級・虹翼!」
「・・・うむ」
毎回こうだ。
初陣は確実にリーセルと決まっているみたいだ。
そしてこの初陣だけでほとんどの敵は抹消される。
「残り二人のマスターランクは初陣より少し距離を取ってから出撃するように!」
「「了解」」
そしてこれもいつも通りのことだ。リーセルの近くに居たんじゃあ流れ弾で吹っ飛ぶことになるからね。
「そして学徒兵ども!」
「はい!」
大きな声で学徒兵たちが返事をした。
「お前達は今回交戦には参加しない」
「え?」
ざわざわざわざわ・・・
「虹翼初め、マスターランクが敵を蹴散らした後に戦地へ赴いてもらう。
細かい内容は随時伝える」
そしてザワつく学徒兵たち。毎回この下りなんだから、いい加減詳しく解説挟めばいいのに。
「それでは只今より、ロイヤルメルトへと出発する!」
なんと雑い。
そして贅沢にも移動は送迎がついている虹翼様は、現在、馬車の中で居眠りをぶちかましていた。
気が緩んでいるのが果たして良いことなのか否か。
――――――――――
学校にもう少し通っていたころに授業で聞かれたことがある。
自分は魔法使いになって何がしたいのか、と。
学校という場においては、いたって普通の問いじゃろう。
他の生徒達も意気揚々と、「国を守るため」だの、「○○のような立派な魔法使いになる」だのと普遍な内容を並べておった。
無論ワシも同じ問いを教師からされた。
今思うと4歳のワシはなんとピュアな精神を持っていたのじゃろう。
「国の英雄になる」
だそうだ。
少女は寝顔から左目を少し開けると、浅く笑った。
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