第6話 余裕がない
「いやワシが言うのもなんじゃが、結果的にドアの前で30分ウダウダしていたワシらが結局の戦犯なのではないか?」
「それが自覚出来ているなら、今日のリーセルには進歩があったようだね。次回の会議には遅刻しないで済みそうだよ」
第六話 余裕がない
はあーーーーーーーー。
僕とリーセルはまたも大きなため息をついた。
会議が終わるまでかなりの時間がかかった。
その間、お子様は話す暇も無く、時間を持て余していたから本当に帰らせてほしかった。
自我の強い人たちばかりでの騒がしい会議が終わり、リーセルは帰路についていた。
本当はもう一度、お姉さんのカフェに戻って夕食を食べ、本屋に行って新しい魔術本を物色しようと話していたのに、そんな時間はなさそうだ。
明日は戦場だ。しかもアビリティーの低い学徒兵たちと一緒にだ。さらには数日にわたっての国の大型企画ときている。
ちなみにアビリティーとは、この国で魔法使いに定められている階級のことを指す。
ニュービー、コモン、エキスパート、マスターの四段階を軸に、それぞれ一級から五級までの段階も存在する。
今日の会議の参加者はマスターランクに当たり、リーセルは学徒兵に与えられる最高階級のマスター三級だ。
「なにかの番組のように出張を言うでないぞ」
「すみません」
リーセルの気力が心配だが、大丈夫かもしれない。
明日も早いのでマーケットに入り、さっさと買い物だけ済まして帰ろう。
「む、、、、」
「どうしたの、リーセル」
公衆の面前で少女はお菓子コーナーの板チョコとにらめっこしていた。
少女の好物はアイスとお菓子全般なのである。
「欲しいなら買えば良いのに。買わないの?リーセルお金持ちなんだから」
「ふー、いや、大丈夫じゃ。そこまでお金使いが荒くはなりたくないのでな」
「あら、そうですか」
実際、学徒兵といえど国からお給料なるものは出ている。
命を賭けるだけあっていい金額を毎回もらっているのに。
帰宅して夕食を済ませたらリーセルは仕事場へ降りた。
仕事場といったが実際は研究室のことだ。
彼女の趣味に魔法書の熟読を上げたけど、その延長か、少女は独自に研究も行っている。
ちなみに今の研究内容は、霊気の生成と蓄積について。ムズい。
進展はほぼ無い。
中々難しい題のようだ。
リーセルの体や、神像のどこから霊気が生成されているのか、というかそもそも霊気とは何かという所から話は始まっているらしい。
僕はこの手の子難しい話は嫌いなのであまりよく分かっていない。
「おい、次はここじゃぞ?」
「はいはい」
「ちなみにヒーラー達の回復の仕組みはそのような魔法を使っているからじゃぞ。何やら回復のための薬もあるとの話じゃな」
「へー」
だそうだ。
面倒がり続けていた僕に呆れた小さな少女は、片付けを終え、自室へ戻っていた。
少女の疲れた一日が終わり、朝には地獄の一日を迎える。
小さな少女は可愛らしい仕草でパジャマに着替え、ベッドに飛び込んだ。
桃色の長い髪が宙を舞い小さな少女の背中に落ちる。
決意の灯されていた紅い目は、生気の無い
同時に小さな少女の瞼も落ち始める。
背中を撫でながら子守歌でも歌ってあげられたら良かったけど、それも叶わぬ夢だ。
少女にとっては戦場が日常だ。
学校よりも、家よりも、長い時間を過ごし、沢山の仲間をなくし、死体を踏み続けた場所だ。
明日にはまた多くの命が少女の手によって吹き飛ぶ。
僕に出来ることはこの子に寄り添い続けることだけだった。
天上に輝く星々も、小さな少女に慈悲を感じているかのように、優しく、弱く光っていた。
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