第5話 面倒はある

少女には無い、ずっと昔の記憶が僕の中でフラッシュバックした。

少女がもっと少女だった頃の記憶だ。

今の学徒兵達と同じく、憧れと希望を抱きながら戦場へ向かっていたもっと少女のリーセル。

戦場へ向かうとなると僕はいつも思い返してしまう。

この癖なんとかならないだろうか。



第五話 面倒はある





はあーーー。

僕とリーセルは、もう一度大きく深呼吸をした。

僕はドアの横にぶら下がっている、時計であろうものに目をやる。

ドアの前でウダウダしていても現実が変わることは無い。分かっているが出来ないのが人間だ。

諦めがついたのかもう一度、目に紅い決心を灯し直して少女はドアを開けた。


今回の会議は国権の集中するエルナード城内で開かれた。

よくわからない配置だが、エルナード城は国王の居住地であると同時に、この国の権力全てが集中している。

いつかここに爆弾仕掛けて国の大事な物全部吹っ飛ばしてやりたいよな。

ああ、で、その一室が今回の会議の会場となっている。


「むっ、」

「げっ。」

ドアを開けた先には、不運なことに部屋にはすでにほとんどのメンツが揃っていた。

まずった。間違いなく参加者最年少であろうリーセルが終盤に来るというこの構図はマナーとしてよろしくない。


「早めに来たつもりだったのだが、遅かったようじゃな。失敬失敬」

こういうところで引かずに話すあたり、この子は感覚がとち狂ってると言うべきか。馬鹿なんだ。もうどうなっても知らない。

口調が、学校・僕と二人だけの場合の、ばば臭い口調のままなのは、リーセルがここの魔法使い達を見下しているからだというのは黙っておこう。


メンツを見る限り、会議より先に、マスターランクの顔合わせがあるようだ。

「けっ、生意気な奴だ。これだからガキは嫌いなんだ!そもそも!ここにガキが来ること自体どうなんだよ?あ?」――マスター2級・火鳥のケリー

(私よりアビリティー低いくせに生意気な口叩くもんじゃのう)

(この中じゃ若株なのに)


「あらリーセルちゃんじゃないの~。貴方尽く威厳の無い子よね~。まさかこのメンバー相手にこの時間に来るなんて」――マスター3級・水蛇のマリアナイト

(何かとリーセルに話しかける割には、息を吐くように悪口を落としていくお姉さんだ)


「マリアナイト、虹翼より弱いやつが本人に何を言っても響かん。口を慎め」――マスター4級・草虎のガンボルノ

(この人は中々強い。実際に見たことは無いけど、めっちゃ硬い結界を張れるらしい。それだけのシールダーなだけあって、このメンバーの中じゃ年長の男性だ。

そしてこの人も息を吐くようにリーセルとマリアナイトの両方をディスっていった)


他にも何名かのマスターランクが席に着いている。1級の人も居るが、だいたいが2級以上の熟練者であり強い。やっぱりオーラが大きい。

「静かにしろお前ら。そろそろ会議が始まる。年寄り学生、早く座れ」

(カッチーーン。うっっっざ)

(まあまあ、落ち着いて)

この人が現役魔法使いでは最高ランク、マスター5級、風龍のリザーブ。

(最高ランクであり最強と唄われる。恐らくリーセルと正面からタイマンをはれるのはこの人ぐらいだろう。そしてナルシストの塊だ)




「いやワシが言うのもなんじゃが、結果的にドアの前で30分ウダウダしていたワシらが結局の戦犯なのではないか?」

「それが自覚出来ているなら、今日のリーセルには進歩があったようだね。次回の会議には遅刻しないで済みそうだよ」

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