第3話 口調は少女じゃない
「リーセル!」
「
学園の門前に大きな雲が出来た。リーセルのずぼら性格を生かして創作した魔法。
水魔法に氷結を加工させることで、どういう仕組みかふわふわの雲ができあがるという謎の魔法だ。
「到着、じゃな」
雲の上にほうきごと着地できるという、地味に便利な魔法の使い方だ。
出発の号令はあんなに可愛かったのに、到着の号令はばば臭いのが僕としては寂しい。
毎日の登校は光速移動、擬似的な雲製造で賄えるというなんとも楽な通学が済んだ。
いつもより2時間は早い通学だ。
ざわっ
予想はしていたがなかなかの反応だ。
リーセルよりも上級生の生徒や教師まで驚きの声を上げている。
冷徹な最強魔女のくせに、毎日遅刻というよく分からないやつが、時間通り登校するだけでこの反応だ。やはりこの子が学園の首席とは嘘なのではないだろうか。
「リ、 リーセル。あなたにしては実に久しぶりの時間通りですね」
先生一周回ってびびってるじゃん。
「今日くらいは規定通りに学校に来なさいとおっしゃったのは先生方だったと記憶していますが」
主人よ、あまり問題事を増やさないでくれ。
そんなクソを見るような顔で先生を見るな。
「え、ええまあ。これからもそれが続いてくれると良いのですが。入学式の前に軽いリハーサルを行うので霊拝堂までいらっしゃい」
珍しく先生があっさり折れた。
まあこんな日にここで乱戦起こして、先生が生徒に半殺しにされる構図を新入生に見せるわけにはいかないしな。
「リーセル、雲消して雲」
「あ」
なぜ冷徹になってもこの地味な鈍臭さは直らないのか。
「
少女の手から炎が出、雲が解かされた。勿論周囲への影響は一切無い。
高度な温度調節技術だ。
火鳥のほとんどは耐熱が効かないほどの灼熱となり一帯は焼け野原と化してしまう事が多い。
こういう点は流石というしかないのか。
だから皆、この子の首席を否定できないのだ。
会場となる霊拝堂はこの学園で一番のキャパの建物だ。
学園の全員が集まるときは大体ここが会場なのだが、それにほとんど出席していないリーセルはまともにここに入ったことが無い。
「今日の入学式はこの霊拝堂で行われます」
霊拝堂の大門を開けた女史は振り返りながら言った。
ちなみにさっきもリーセルに喧嘩を売られた彼女は、ここの副学園長だ。
霊拝堂は想像よりもしっかり手入れのされた作りだった。
正面には最も重要な神像、その前には装飾のきいた椅子が並んでいる。
いわゆる教会のような設計のようだ。
ここで学生や教師たちは霊気を回復する。
リーセルのように自身で霊気が回復できる(リーセルだけだけど)魔法使いとは違い、全ての魔法使いは属性に関係なく魔法の使用に霊気を使う。
攻撃を食らうことでも霊気を消費するため、各地にある神像は重要な役割を果たしているのだ。
「貴方に挨拶をしてもらうのは学園長の挨拶の次、在校生代表挨拶です。
内容は大丈夫ですか」
「ええ、準備は出来ています。どれも問題ないのでもう戻っても良いですか」
「立ち位置などは把握しているのですか?」
いいえ先生。こいつ立ち位置なんて分かってないし、何なら内容の準備だって欠片もしてません。
「はあ、まあいいでしょう。時間になったら呼びにいかせるのでそれまでご自由にどうぞ」
「了解です。では」
「リーセルさん?内容なんてまだ決めてないよ?どうするの?」
「ノリで行けるじゃろう、多分。それより今はアイス食べたいんじゃ」
「あ、そうすか」
学園の首席、アイスが毎日の朝食であることが発覚。
そしてなぜかこの学園にはちゃんとアイスが売っているのだ。
無事アイスも食べ、ぼけーっとしていたところに迎えは来た。
一回生ぐらいの女の子に見える。五年制の高等部で、リーセルは三回生なのでリーセルより年下かな。
「あの、虹翼の魔女様。副学園長がお呼びです。まもなく始まるので霊拝堂へ、とのことです」
リーセルの閉じた右目がピクリと動いた気がした。
「うむ、分かった」
そう言って主人は微笑んだ。
恐らくは目にしたことがないだろう少女の微笑みに、下級生の頬が赤く染まっていくのが分かった。
・・・遅刻という欠点だけを除けば、リーセルはステータスフルマックスの天才なのだ。
下級生にファンが多いらしいことにも頷くしかない。
それにしても冷徹な魔女にここまでしっかり話した下級生は久しぶりだ。だいたいはリーセルに一目見られただけでUターンなんだけどな。怖すぎて。
彼女は、いい魔法使いになるだろう。
ところで、いつもは微笑むとかしないのに、どういう風の吹き回しだろう。
早起きのせいで気が狂ったかな。
「リン、殴ってやろうか」
「・・・やめて、リーセルが傷つくだけだよ」
僕の悪口に反応したリーセルは目つきを鋭くさせる。
「はぁ、あの子は水魔法の使い手じゃ。霊気の種類で分かった。将来有望な後輩とは仲良くしておきたい。それだけじゃよ」
「はーーん。そんな事考えてたんだ。なら余計に」
「ちっ、あーーもう、とりあえず行くぞ。早くしてやらんと待ちくたびれてばあさんの老朽化が進んでいく」
「ひどいな相変わらず」
さっさと歩き出した少女に僕は微笑んだ。
しかし何故か少女は僕にニヤリと微笑み返してきて、得意げに、しかし興味は無い、といった様子で言った。
「あと、どうでもいいが先の子は顔の整った男の子じゃぞ」
「え、うそ」
一本取られた。今回は僕の負けのようだ。
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